世間一般的に現実的なのは女のほうで、夢見がちなのは男のほうだとよく聞く。
それは女と男いう性別を構成する遺伝子上での問題になるのかどうか、今世界では問題にあがっているようだ。
遺伝子上の問題だけで綺麗に片付けられるとは思えないが、まぁそれもあるのかもしれない。
他にも違う要因はいくらでもあると思う。
たとえば俺の周りの人間の場合、女の方が非常に現実的なのは父親が早くに亡くなってしまって小さな頃から現実をしっかりと見据えなければいけない状況にあったからだ。
その真逆をいく男の場合、コイツの場合は二親も健在だし家もかなりの金持ち。
自分には自信なんてありまくりで、実際それだけの能力を持っている。
けれど、この男、つまり跡部景吾はかなり夢見がちだと、俺向日岳人は思う。
さっき言った現実的な女、っていうのはのことで俺のクラスメート。
そして跡部の彼女とかいうやつ。
なんのつながりがあってこの二人が付き合ってるのかはわからないけど、去年同じクラスだったからそれ繋がりかなぁとは予測をつけてる。
二人が付き合いだして結構長いけれど、あの跡部様ファンクラブが黙ってるわけがない。
実際のやつ、何度か呼び出しくらったり色々とやられたらしいけど今は結構静かなもんだ。
あの跡部が黙ってるとも思えなかったし、自身もしっかりと『お返し』をしていたようだ。
まぁそんなことはどうでもいい。
この二人、しょっちゅう些細なことで喧嘩をする。
お互いの価値観が合わないのが原因だって侑士は言ってたけど、価値観が合わないくらいならわかれちゃえばいいのにと思ったのは俺だけじゃない筈だ。
それでもこの二人がどんなに喧嘩をしても分かれないのは、偏に跡部がにベタ惚れだかららしい。
生活レベルをさげるような事は跡部自身しないけれど、なるべくや俺みたいな生活に合わせようとは色々努力しているようで。
みんな口に出しては言わないけど、跡部がすっかり尻にひかれてるのは確かだ。
で。
場所も話もガラリとかわって。
ここは俺たちテニス部のレギュラー専用部室。
さぁ今から練習だって時なのに、部屋のど真ん中でもう何度目になるのかわからない喧嘩をしている一組のカップル。
あぁでも客観的に言わせると文句を言ってるのは跡部だけだ。
些細なことでしか喧嘩しないとは言ってたけど、本当に今回の原因も些細な事、なんだと思う。
「なんでバレンタインなのに俺へのチョコがないんだよ!!」
跡部にとっては些細なことじゃないかもしれないけど。
俺がハァとため息をこぼすのと同士に宍戸も向かい側で同じようにため息をこぼしている。
その隣で鳳があわあわと部屋の中心で騒いでいる跡部を見て慌てふためいている。
侑士はというと日吉と樺地と一緒に「くだらんわ」とさっさと練習に行っちゃった。
樺地まで部屋を出て行ったのにはビックリしたけど、きっと樺地ももう疲れたんだと思う。
「別にあんただけじゃないじゃない。誰にもあげてないわよ」
「でも俺はお前のなんだ?!恋人じゃなかったか!?」
「なによ。あんた、そんなにチョコが欲しいわけ?」
一人がけ用の跡部専用のソファにどっかりと座っているのはのほうで、跡部はその前で仁王立ちだ。
上から跡部が見下ろしてる感じだけどオーラ的にいうとのほうが断然強い。
「べ、別にチョコが欲しいわけじゃ」
「じゃあいいじゃない。大体チョコあげるなんて日本のチョコレート会社の作り話じゃないの、くだらない」
は跡部お得意のハッと馬鹿にしたような笑いをこぼすとふいっと顔を横に向けてしまう。
こうなるとには何を言っても駄目だ。
聞きもしないし話もしない。
で、跡部はというとフルフルと微妙に震えたかと思うと
「クソ女ぁぁ!!ふざけるなよー!!」
そう一言叫びはしなかったけどに向かって言うとダッシュで部室を出て行ってしまった。
ラケットももたずに。
俺には負け犬の遠吠えにしか聞こえなかったんだけど、いや、実際ある意味負け犬なんだろうな跡部のやつ。
でも。
「さぁ、なにもあそこまで言う必要ないんじゃねぇの?」
「なんで?みんなしてチョコチョコ五月蝿いったら。アンタだって周りの女の子からチョコ貰って嬉しそうにしてたけどさ」
ちらっと目だけこっちに向けて言うに俺はうっとつまる。
まぁそりゃ色んな女の子にチョコとかたくさん貰ったけど、今日は特別なんじゃないの?
「あのなぁ、」
「なによ、宍戸」
「跡部の奴がこだわってるのは別にチョコじゃねぇだろ」
「チョコが欲しいわけじゃないとは言ってたけど、ようはアイツ、私から何か欲しいわけでしょ?」
やぁよ、面倒くさい。
さっきと同じようにハッと鼻で笑うに今度は鳳が「そうじゃなくてですね」と宍戸の後に続いて口を開く。
さっきまでのどこか慌てふためいてる状態ではない。
「跡部さんにしてみれば今日は特別だったんですよ」
「あぁ、鳳の誕生日だから?」
「違いますよ!!わかってて言ってるんですか?」
そうは言いながらも鳳のカバンの中にはしっかりとからの誕生日プレゼントが入っている。
恐らく今日が贈り物をしたのは鳳だけに違いない。
「チョコがどうとか、女の子が好きな人にっていうのは確かに日本だけの風習で、チョコレート会社の売り上げ上昇作戦かもしれないですけど」
「だから私はそんなのにお金は使いたくないわよ」
「そうじゃなくて!」
もうじれったい!とばかりに鳳は声を大きくする。
鳳が言いたいことはなんとなくわかる。
宍戸もわかってるからさっきに話しかけようとしたんだと思うし、滝なんかすっかり傍観体制にはいっててずっとクスクス笑ってるだけ。
「跡部さんにとってはバレンタインの日をくだらないの一言で片付けられたのがショックだったんですよ!!」
「は?」
のきっつい視線がギロンと鳳に向けられる。
「そりゃ恋人の日とかってのも日本だけですけど、たまには跡部さんにも付き合ってあげてくださいよ…」
その途端声が思い切り小さくなる鳳、気持ちはわかるぜ。
でもにらまれながらもよく最後まで言った!グッジョブ!!
「鳳はアイツがこのバレンタインの日に私がアイツとイチャイチャしてやればいいっての?」
「いえ、イチャイチャまでとは…」
「絶対イヤ!!恋人の日とかってのもふざけてるでしょうが、本当バカバカしい」
「だからって、それを跡部に言わなくてもいいだろって長太郎は言いたいんだっつの」
しょぼしょぼと段々小さくなっていく鳳を庇うように宍戸がに言うけど、同じように睨まれてるからかお世辞にも大きな声とはいえない。
「私やることはちゃんとやってるわよ。ちゃんと一年記念の日だってデートしてあげたし」
あ、そこでデートに行ったじゃなくて、してあげた、になるのがらしいというか。
「電話もメールもちゃんと返してるし」
自分からはしないんだろうなぁ。
「男と女のやることだってちゃんとやって」
「「「ワーワーワー!!もうイイ!!!」」」
慌てて俺と宍戸と鳳のとめる声が部室の中に響き渡る。
滝は相変わらずクスクス笑ってるだけ。
「あんたたち、跡部のことばっかり庇ってるけどさ。そもそもバレンタインがどういう日だか知ってるんでしょ?」
「バレンタイン司教の話ですか?勿論知ってますけど」
「それもそうだけど。世界的にバレンタインは性別関係なく日ごろお世話になってる人に感謝の気持ちをしめす日よ」
「それも知ってるけど」
「どっちかっていうと、アメリカとかじゃ男の子が女の子に花束とかカードとかあげる日よ!?」
肘掛にひじを乗せ頬杖をつくの顔はどっちかっていうとかなり機嫌が悪そう。
さっきから十分悪かったんだけど、もしかして宍戸と鳳が煽ったせいじゃねぇの?
「イギリスにおばあちゃまとかいるくらいなら、アイツが私に日ごろの感謝の気持ちこめて花なりカードなり差し出せって話だと思わない??」
「「「そうかもしれません…」」」
え?そういう流れになるのか?と一瞬思ったんだけど、効果音をつけるならどーんだろうか、やけに自信たっぷりに言うに俺と宍戸と鳳は素直に頷いてしまう。
滝はというと、今度はおなかをかかえて大爆笑している。
あの滝がだ。
で。
ちょうどグッドタイミングというかこれもが跡部のことをよくわかってるからというか。
バンっと大きい音をたてて部室の扉が開いて。
「これでどーだ!!オラッ!!!」
そう言ってずいっとちょっと白みがかった薄いピンク色のバラの花束を跡部がぜぇぜぇと息をはきながらの目の前に差し出した。
突き出されたその花束には機嫌悪そうな表情を崩すことなく、ただ一言。
「私に?」
花束を持った右手を差し出したまま跡部はソレに対し、当たり前だと返し。
「そ。どうもありがとう」
そう言ってがはじめて見るようなすごく優しい笑みを浮かべて両手でその花束を受け取ろうとするのを見て。
俺は滝に、宍戸は鳳に、首根っこっを引っ張られて部室の外に連れ出されてしまった。
世間一般的に現実的なのは女のほうで、夢見がちなのは男のほうだとよく聞く。
それは女と男いう性別を構成する遺伝子上での問題になるのかどうか、今世界では問題にあがっているようだ。
遺伝子上の問題だけで綺麗に片付けられるとは思えないが、まぁそれもあるのかもしれない。
他にも違う要因はいくらでもあると思う。
たとえば俺の周りの人間の場合、女の方が非常に現実的なのは父親が早くに亡くなってしまって小さな頃から現実をしっかりと見据えなければいけない状況にあったからだ。
その真逆をいく男の場合、コイツの場合は二親も健在だし家もかなりの金持ち。
自分には自信なんてありまくりで、実際それだけの能力を持っている。
でも夢見がちな跡部にちゃんと付き合ってあげる現実的なとの組み合わせはある意味相性がいいのかもしれない。