俺の通う立海大付属中学には有名なカップルがいる。
それはもうものすっげぇ有名で、どのくらい有名かっていうと世間一般的な意味合いでの『知識不足』なあの真田副部長ですらそのカップルのことを知ってるくらい有名だったりする。
あの真田副部長がだよ!?すげくね?
「あのね赤也、別にカップルでもなんでないから」
またまたぁ、幸村ぶちょー!
そんなこと言ってもみーんな言ってるじゃないですかぁ、部長と先輩のラブラブカップル!よっ!
「だから、違うんだって」
でもでも、俺の友達とかもよく街で部長と先輩が二人一緒に歩いてるところとか食事してるところとか見かけるって言ってたっすもん。
何もないオトコとオンナが二人きりで出かけるなんて、ありえないっす!
「いや、俺たちだとありえるんだって」
二人ともこーんなに有名なのに!
ほら、見てください。今日発売の立海中学新聞っすよ。
ここ、ここ、彼氏に抱きしめられる彼女幸村精一の写真を大公開〜って・・・あれ?
「赤也、この新聞没収ね。ていうかなんで俺が彼女になるの、おかしいよね?」
え?だって先輩のほうが部長よりも身長高いっすよ・・・・なんでもないっす。
ちょっと口がすべりました、エヘ。
「うん、赤也。学校周り30周ね、今日はそのまま帰ってこなくていいよ」
えー!部長〜ごめんなさい〜!許してほしいっす〜!!
「早 く 行 け !ついでにそこで立ち聞きしてるブン太と仁王も一緒に外走っておいでよ?」
「ゲ!ばれてた!!」
「・・・ばっくれるぞ、ブン太!!」
とにかく、部長と先輩は立海大付属中学で一番有名で一番凸凹なカップルだ。
本人達は幼馴染だと言い募ってるけど、誰も信じちゃいない。
「精市」
「あれ、。どうしたの、テニスコートまで来るなんて珍しいね」
「あーうん。それがね、悪いんだけど今日部活の方が長引きそうだから先に帰っててくれる?」
俺が走り出してすぐにテニスコートのフェンス越しに件の先輩がやってくる。
制服じゃなくてジャージを着てるところをみるとどうやら先輩の方も部活中だったらしい。
先輩は俺の一つ上の学年で、確か仁王先輩と一緒のクラス・・・
「ちゃうわい、柳生のクラスじゃ!ボケ赤也」
ひどいっす、仁王先輩!とにかくまぁ柳生先輩のクラスメートで、立海中女子バスケ部のエースで部長さんだ。
はじめて先輩の姿を見たとき、制服じゃなくてジャージを着ていたからてっきりオトコの人だと俺は一ヶ月もの間勘違いしていてそのことをしった仁王先輩とブン太先輩に散々馬鹿にされた。
勘違いして当たり前なんだよな、だってあの先輩って柳先輩よりも身長高くて髪もこれまた仁王先輩は勿論柳先輩よりも短くてとにかくかっこよかったわけだ。
テニス部の先輩なんかよりも遥かにかっこよかった訳だ。
「ていうかあれだけ毎日一緒に二人で帰ってて付き合ってないってのはどうなんですかね!?」
「さぁのう、幸村が付き合ってないっつったら付き合ってないんじゃないか?」
先輩と幸村部長が実は幼馴染とやらな関係だと知ったのは、確か去年の夏ごろだったような。
とにかく家に帰ってゲームをやるのが日課だった俺はそれまでさっさと部活が終わればダッシュで帰ってたんだけど、夏からレギュラーに選ばれて帰るのが少しずつ遅くなっていったことでお互いの部活が終わってから一緒に仲良く帰宅する先輩と幸村部長を見かけるようになったのだ。
なんでも真田副部長に言わせると二人がいっしょに帰宅するのは小学校の頃からで(真田副部長のジェラシーも小学校から続いてるってことになるけど)中三になった今でも時々手を繋いでるときがあるらしい。
「手ぇ繋いでて付き合ってないなんてありえねぇっす!!羨ましい!!」
「・・・お前はそっちかぃ。でもなぁ、あれだけ身長差あったらオトコとしてどうよって思うんだけどよ」
「ブン太に同感はするがあの幸村じゃぞ?微妙なとこじゃなぁ・・・」
身長182センチの先輩と身長175センチの幸村部長。
俺にしてみりゃどっちも羨ましいんだけど(身長とかさー)確かに部長にしてみれば「どうよ」って感じなのかもしれない。
「でもなぁ、幸村も怒ってたけどアイツが彼女でがいつも彼氏って言われるんだぞ?俺だったらゴメンだね!」
「じゃがどっからどうみてもが彼氏で幸村が彼女じゃろ?身長は勿論、顔だって・・・」
仁王先輩の言うとおりっすよ!俺だって一時先輩にホレボレしてたくらいっすもん!
かぁっこいいですよねぇ、先輩。ブン太先輩もあれくらい目指さなきゃいつまでたってもポヨンポヨン・・・
「なぁんか言ったか、赤也?」
別に何も言ってないっすよー!すーぐ怒るんすもん、ブン太先輩。カルシウム不足ってやつですか?
ギャー!なんでそこで怒るんすか?絶対ブン太先輩、カルシウム不足っすよ!ギャーやめてやめてぇ!!
「相変わらずテニス部はにぎやかだね」
「・・・・三人へのお仕置きはまた考えるとして、別に俺は何も用事ないから待ってるよ?」
フェンス越しにクスクス笑いながら自分達から走って離れていく三人の後姿を見ている幼馴染に少しだけイラッとしたものを感じたなんて幸村は口になんてしない。
果たして本当にそれは幼馴染に感じたものなのか、それともあの自分達には聞こえてないとでも思ってる音量で喋り続けている三人に感じたものなのか、わかりやしない。
赤也には何度も言ったし、新聞部の連中にも何度も何度も言った、自分達は付き合ってなんかいない、ただの幼馴染だと。
嘘でもなんでもなく本当のことなのだ、目の前の相手との関係は。
「でも本当にいつ終わるかわからないから。今週末の試合にみんな燃えてるしね」
「テニス部の部室で待ってるよ?宿題でもやってる」
幼馴染の関係から進むか、進まないか。あまり今は気にしていない、っていうのも本当。
お互いにバスケットとテニスが大事で、自分からなくせないものになってしまったから。
「そう?別にみんなと帰るし大丈夫なのに・・・」
「俺が嫌なの、絶対に待ってるからね」
「わかった、じゃあ部活終わったらテニス部の部室に向かうよ。ごめんね、本当に何時になるかわからないよ」
でも、目の前の相手も絶対に手放せない存在だ。
どれだけ俺の身長が低くても(あと2年で絶対に追い越してみせる!)どれだけ俺のほうが女顔でも(髭でも生やせってか、腕も足もツルツルなのに!)どれだけ俺が彼女役でも(その前に付き合ってもいないんだけども)目の前の存在だけは絶対に手放せない。
「気にしなくていいっから。部活頑張って、試合も見に行くしね」
「ん、じゃあ休憩時間そろそろ終わりそうだからもう戻るね。精市も部活頑張って!」
俺のほうが身長が高くなって幼馴染って関係にジ・エンドするまでは。
そこから先も手放す気はないけどね。