そそそそ双黒ですって!?あーあーあー、どうしましょー!!まままままずは陛下にー陛下にぃぃぃぃ…!!

目の前でこちらを見て騒いでいる薄紫色の髪の美形は汁を撒き散らしながら一人、回廊とおぼしきこの場所でてんやわんやとうろたえまくっていた。
が。
それ以上にうろたえていたのは、こっちのほうだ。

「なに、あれ。真田よりヤバイよ」
「あっれー、ここ事務所じゃないC!」
「………は?」
「うわぉ!なんかどっかのお城みたいじゃん!」
サルガタナス、殺ス!!
「は?ここどこだ?ていうか、俺巻き込まれてる?このメンバーに巻き込まれてる!?

いや、うろたえていないのが半分くらいいる、いやそれ以上か。
なんなんだ、うろたえてる私が馬鹿みたいじゃないか、うろたえてる私と跡部と宍戸がすっごい可哀相な子みたいじゃない!!
不二と幸村なんて自分のペースだし、いやいや、それはジロちゃんとキヨも一緒だ。

とりあえず、だ。

「そそそそ双黒のお方っ!!是非、是非、このギュンターめにお名前をぉぉ!!」

私の手を両手で握り締めて汁垂れ流し状態のこの目の前の男をどなたかなんとかしてくれませんか。

「ギュンター、何騒いでんのー?って、」
「ギュンター!!お前は昼間っから回廊で何を騒いで、って…」

どうしようこの人、殴ってもいいかしらとさえ思い始めたそのタイミングでどうやら回廊の向こうからこのおかしな美形さんの知り合いがやってきたらしい。
美形さんの脇越しに学ランに身をつつんだ少年と金髪美少年の二人連れを視界に入れる。
どうやらこの変な美形さんはギュンターというらしいが、どうやらこの変人さん、本命は学ランの少年らしい。

「へへへへ、陛下ァ!わたくし、浮気などしておりませんよ!それはもう陛下への愛でいっぱいでゴフアッ!!
ギャーーーーーーー!!!
ギュンターーーッ!!!!なに見知らぬ人の前で汁垂れ流しちゃってんの!?」
「うわぁ…俺にも何か降りかかってきたC…」
「なにこれ……」

変人さんが私の両手を持ったままやってきた二人組みの少年にむかってまるで浮気がバレマシターみたいな男の台詞を必死の形相で口走ると同時に、更に体から汁を分泌。
その分泌された汁(成分はおそらく色々、しかし主成分は赤血球とかだと思われる)は相変わらず両手を掴まれたままの私と、私の背中にへばりついたままのジロちゃん、そして幸村に注がれる。
それはもう盛大に。

「ギャーー!なに、この汁っ!!タオル!タオルをちょうだい!!ってジロちゃん、さりげなく私の背中にこすりつけないでーヒィィィ!!!
「うーん、とれない…」
ギュンター!!貴様はなんてことを!!」
「いや、それよりも、風呂!?早く風呂に案内してあげてよ!!」
「お風呂!!、一緒にお風呂に入ろうよ」
「俺も、俺も!!」
「さりげなくセクハラ発言かましてんじゃないわよ、いいからタオルーーーーーーーー!!!!」
「ギュンター、お前のユーリへの愛など明らかに僕以下だろう!?さっきまでそこの女と手を取り合っていたじゃないか!!」
「なななななんですと、ヴォルフラム!!わわわわたくしの陛下への愛を疑っているのですか!?」
「風呂!風呂!えーと、タオルどこにあんの!?うわーーん、コンラッドーーーーーーーーーーーーーーォォォォ!!!!

そうして、呼びました?と爽やかな笑顔を顔に浮かべた青年がやってくるまでこの回廊はカオスへと成り果てていき、話も一向に進まなかったのだ。






















「で。なんでお風呂上がった途端拘束されたあげくこんな尋問みたいなの受けてるんでしょ、私たち」
「すいませんねー、双黒のお嬢さん。これもお仕事なんデスよー」
「あのー、私はかまいやしないですが私の隣の隣の隣にいるお方の縄はほどいてくれませんかー?」

体中にべたついている汁を落とすべくお風呂を借りてホカホカ気分になれたのはいい。
お風呂もどこの温泉だってくらい広くて(四本角の牛の像が気になって仕方ないけれど)ピカピカで最高の温度で、とってもゴージャスって感じではあったけど。
服を着替えて更衣室みたいなとこを出た途端、すみませんねーと言われながらこの目の前の男にぐるぐると縄で拘束されてしまったのだ。
状況についていけず頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら放り込まれたこの部屋の中には既に私と同じように縄で拘束されている見慣れた野郎どもの姿。
ますますもって状況についていけない私たちに、オレンジ頭の筋肉青年は一言、何が目的ですか?とこぼした。

「すみません、筋肉お兄さん。目的はなにかと聞かれてもその質問の趣旨がわからないというか、寧ろこうなってる私たちの状況についてまず教えて欲しいかなと」
「うーん、じゃあ質問変えます。お嬢さんたち、陛下の命を狙ってこの城に忍び込んだんですか?」

お兄さんのその声に、みんなの眉がひそめられる。
幸村ですら私の腕というか拘束されているから私の横にへばりついてるって状態ではあるけれど、お城?と怪訝な表情を浮かべている。

「ここは城なの?」
「城ですよー。あんた達、ここがどこだかわかってんでしょ?」
「城っていうと大阪城とか名古屋城とかの城?それともドイツとかの王様が住んでるお城?」
「オオサカジョーとかナゴヤジョーってのはよくわかりませんが。ここは少なくともお城ですよ」

オレンジ頭の二人が頭をつき合わせて話している、なかなか目に優しくない色だ。
それよりも、早くこの隣の隣の隣の人の縄をといてほしい。
さっきから徐々に床下が床下冷房(発信源、隣の隣の隣)みたいな状態になってきていて隣の跡部と隣の隣の宍戸の顔が顔面蒼白になってしまっている。
凍傷になるほどの寒さではないけれどしもやけにはなりそうな寒さだ、人為的な。

「あんた達、本当にここがどこだかわかってない?」
「ここがどこかなんてわかんないよ、私たちだって目の前に急にあの変な美形さんが現れたんだから」
「変な美形って……あー、フォンクライスト卿ね。あーちょっと待って、となると俺じゃあどうしようもないなァ」

筋肉お兄さんは困ったように頬をガリガリと右手でこすり、もう一度困ったなァと零した。
困ったなァってのは私たちのほうだとお兄さんはわかってくれないのだろうか、そろそろ私の足が冷たいものに包まれそうになってきている。
宍戸なんかはもう――――何も言うまい。

「ヒィィ!宍戸が、跡部が、私が!死んでしまう!!お願いだから隣の隣の隣の人の縄をぉぉ!!」
「ぐり江ちゃん、ちょっと待ったーーーー!!」

私の叫び声とバーンとこの部屋の一つしかない扉がものすごい勢いで開けられたのが重なった。
開け放たれた扉からは先ほど変な人に絡まれていたのを助けてくれたけどその後の悲惨な状況のある意味原因でもあったのだろう学ランの少年と最終的にあの場所と変人から助けてくれた爽やかな青年が現れ、少年の方は床に座り込んでいる私たちを見るなりサーっと顔を青ざめさせた。







どうでもいいのでとにかく隣の隣の隣の人の縄を(以下エンドレス)