ドアを開け放ってやってきた少年は床に縄で縛られたまま座り込んでいる私たちの姿を見るや否や筋肉お兄さんに顔をグルンと向けた。

「なんでこの人たち縛られちゃってんの!?早くほどいてあげてよ!」
「いやぁそう言われても陛下、彼らが一体誰なのか目的が何なのかもわかんないんですよぉ」

困ったように返す筋肉お兄さんに少年の後ろに立っていた爽やか好青年が助けをだすかのようにポンポンと少年の肩を軽くたたきながら「ヨザックの言う通りですよ」と少年に口を開いた。
ぐっと一瞬つまりながらも少年はけなげに、でも、と再び口を開こうとしてお兄さんにニコと笑いかけられて完全に詰まってしまう。
このヘタレめ、と内心毒づきながら「おーい、どうでもいいからさー」と筋肉お兄さんに話しかける。

「隣の隣の隣の人の縄だけ外してくれませんかー?他は大人しくつかまっておきますからー…」
「なんで、そのお姉さんの隣の隣の隣の人限定なの?」

そろそろ足がヒリヒリというかピリピリというかひんや〜りというか、足だけ氷点下の世界に突入しそうなので助けを求めるべく筋肉お兄さんに口を開いた私だけれども筋肉お兄さんではなく少年が不思議そうに私の前に座り込んで首をかしげた。
好青年が「ユーリ!」と言ってたしなめようとしたけれど少年は全く気にすることなくなんで?とばかりに首をかしげている。

「足元が床下冷房になっていてですねー、発信源が隣の隣の隣なんですよ、少年」
「なんで隣の隣の隣の人が発信源なの?」
「それはね、少年。私の命よりも重要な質問とは思えないから応えるのを拒否させてください、ハイ

頭を下げた。
そういうと少年は心底わかんないとばかりに再び首をかしげる。

「ユーリ、もういいでしょう。あとはヨザックに任せて…」
「ちょっと待ってよ、コンラッド。ねぇお姉さん、ん?お姉さんで合ってる?」

立ち上がらせようとしたのかユーリというらしい少年に声をかけた爽やかお兄さんだけれど、少年はあっさりと肩に伸ばされた手をはたきおとして私の顔をのぞきこんだ。
うーん、まぁ確かにこのメンバーの中で私から話を聞こうとするのは正しい。
キヨちゃんは縛られたまま楽しそうにゴロゴロしている、度胸があるとかじゃなくて論外だ。
ジロちゃんはお風呂上りでホカホカだからか私の背中にくっついてお休み中、ある意味これも論外といえば論外だけど悲しいかな日常といえば日常だ。
幸村は言うまでもなく私の隣でベッタリ、以下省略。
床下冷房発信源となってしまっている隣の隣の隣の人、今はあまりに不機嫌なため名前を言うのも恐ろしい。
多分私よりきちんと説明ができてきちんと話が聞ける宍戸と跡部は私と床下冷房発信源の間で真っ白に燃え尽きている、使えない

「何処からどう見ても私は女でしょう。なに、少年、私が男にでも見えるの?」
「あー…いや、ごめんなさい。そのー…逆のパターンが身近に…」

ユーリ少年は素直に謝ると訳のわからない事を言いながらチラリと筋肉お兄さんのほうに視線を向けた。
なんなんだ、一体。

「で単刀直入に聞くけど、お姉さんは人間なの?それとも魔族?」
「陛下、単刀直入すぎますってー。大体このお嬢さん、双黒ですよ?魔族に決まってんでしょ」

首をかしげたまま人間?魔族と聞いてくるユーリ少年に、笑いながら私のことを魔族とかいう筋肉。
魔族っていうのは、あれですか、魔法の魔とか魔界の魔のつく種族のことですか。
というかどこをどう見ても私も少年も筋肉も好青年もみんな人間にしか見えないんですが。
幸村ですらポカンとした表情でユーリ少年のことを見ている、それほど『意味不明』な質問だったのだ。

「えー、と?いまいち質問の意味がよくわからないんですけど人間か魔族?とやらかと聞かれたら私たちはみんな人間ですけど」
「え?人間なの?魔族じゃないの?」
「ほら、陛下!人間ですって、危ないんですから下がってください!!」

爽やか好青年が無理矢理ユーリの体を起こすと自分の体の後ろに隠すようにして立った。
なんですか、その私たちが危ないイキモノみたいなその行動は!!

「ていうか、少年とか筋肉お兄さんも人間なんでしょ?魔族ってのはよくわかんないけど」
「お、お姉さん?」
「うん、魔族はよくわかんないけど悪魔ならよっく知ってるよ!!ほら、隣の隣の隣………」













「なに、は僕が悪魔だとでもいいたいわけ?」











笑顔で横に首を向ければ何故か先ほどまで縄でしっかりと縛られて座り込んでいた床下冷房発信源が私を遥かに超える素敵な笑顔で立ち上がっていた。
しかもその体のどこにも先ほどまで縛り上げられていたはずの縄がない、つつつと視線を移動させて彼の足元にやるとはらりと落ちている縄が一つ。

「ヨザック!!しっかり結んでたんだろうな!?」
「そりゃあもうしっかり結んで締め上げてましたよぉ、俺にヤツあたらないでくださいよ、隊長!!」

ユーリ少年を庇うようにして爽やかお兄さんと筋肉お兄さんが前に出る。
が、不二にしてみれば恐らく今標的になるべきモノはこの状況を作り出したサルがナスでもなく縄で理不尽にも縛り上げてくれた筋肉お兄さんでもなく。

。さっきの意味、しっかりと教えてもらおうか?ん?」
「ギャーーーーーーーーース!!」

私だった。

「いい加減口は災いの元っていうのを学習しなよ、ねぇ。本当に脳みそ足りないんだね、振ればカランカラン音が鳴るんじゃない?」
「す、すみま…」
「僕は今すごく機嫌が悪いんだ、わかる?君が、僕に、ぶつかってこなければこんなことにはならなかったよね?どうみてもコレは移転の失敗でしょ?」
「そ、そうですね」
「人間だ魔族だ訳のわからないことで縛り上げられるわたまったもんじゃないね。いっそを縛り上げて東京湾に沈めてやろうか、ん?」
「ご、ごめ…」

ノンストップ、不二の演説。もとい八つ当たり。
なにもかも腹立たしい原因はどうやっても私になるらしい、勘弁してくれ。
このままほかの人たちを無視して長々と不二の八つ当たりがずっと続くのかと覚悟を決めたそのとき。

「ねぇ!東京湾って知ってんの!?じゃあ日本って知ってる!?えーと、ジャパン!フジヤーマとかハラキーリとか」
「ユーリ、かぶれ日本人のようになってますよ」

ユーリ少年がお兄さんズの体の間から顔を一生懸命覗かせて声をあげる。
さりげなく爽やかお兄さんが突っ込みをいれているけれど、確かにフジヤーマとかハラキーリって…。

「君達もさっきから訳のわからないことばかり言ってたね。日本?知らない人間がいるとでも思うの?どこをどう聞いても僕達だって日本語しか喋ってないでしょう?」

不二がギロリとばかりにユーリ少年を睨みつける、相当苛立っているらしい。
しかしユーリ少年はその不二の睨みに一瞬ビクリと緊張したことはしたらしいけれど、すぐにお兄さんズの体をペチペチと叩きながら「日本人だ!日本人だ!」と騒ぎ始めた。
筋肉お兄さんはちょっと訳がわからないとばかりに頭にクエスチョンマークを浮かべて、そして爽やかお兄さんは本当に困った表情を浮かべて腰もとの剣らしきものに伸ばしていた手をひっこめて私と不二に体を向けた。

「貴方方がたは日本人ですか?」
「僕たちは全員日本人だよ、ジャパニーズ」
「一応全員東京出身の高校生です」

そういうと爽やかお兄さんは不思議そうな表情を浮かべたままの筋肉お兄さんに何か耳打ちし、眉を一瞬ひそめた筋肉お兄さんはすぐにきびすをかえして部屋を出て行った。
その間もユーリ少年はどことなく嬉しそうに、それでいてやっぱりどこか筋肉お兄さんや爽やかお兄さんと一緒で困った表情を顔に貼り付けて私たちのことを熱心に見つめている。

「申し訳ありませんでした。すぐに縄を解かせます」
「は、はぁ。まぁ解いてくれるならそれにこしたことはないんですけど」
「お姉さん、本当に東京の人なの!?23区?新宿知ってる?秋葉原とかえーとあと上野とか」
「ユーリ、興奮するのはわかりますが落ち着いて。ギュンターかグウェンにでも客人を迎える準備をするよう言ってきてもらっていいですか?」

堰ききったように話し出すユーリ少年に爽やか青年は落ち着いてと声をかけると、誰だかわからないけれど人の名前を告げてそっと少年の背中を押し出した。
つまらなさそうな顔を一瞬したもののユーリ少年はすぐにわかったと言って部屋を飛び出していく。

「とりあえずここがどこだとか人間だ魔族だとか訳のわからないこと全部、説明してくれるんだね?拘束なしで」
「えぇ、本当に申し訳ありませんでした。説明もさせていただきます、その、多少突飛な話になるかもしれませんけど…」

爽やか青年は今度こそ困ったという表情で私たちに顔を向けた。







跡部と宍戸の保護を最優先でお願いします