「ということはなんですか、ここは日本どころか地球ですらないということですか」
「はい。もっと簡単に言ってしまうといわゆる異世界と呼ばれる場所ですね」

コンラッドと名乗った爽やか青年は(でも呼びにくかったらコンラートでも構わないと微笑んで言ってくれた)こっちにしてみれば笑い事じゃない状況なのに顔同様に爽やかに笑って答えてくれる。
でもここまで爽やかな笑顔は事務所じゃなかなかお目にかかれないので許しておく。
だっていつだって私の周りに転がってる笑顔なんてのは『ニヒルな笑顔』『胡散臭い笑顔』『見下したような笑顔』『女々しい笑顔』『腹黒い笑顔』エトセトラエトセトラ、まともな笑顔がない。
そう考えるとコンラートのこの爽やか笑顔は貴重だ、とても。

「しかもなんですか、あなた達人間じゃないんですか」
「えぇ、この城にいるのは人間じゃなくて全員魔族ですね」
「そうですか、魔族ですか。どこのゲームですか、こんちくしょう!!」

でもどんなに爽やかに笑ってもらいながらお話を聞いていても許容量っつうものがある、早い話私の許容量は目の前の彼らが人間じゃなくて魔族だって時点でパンパンになった。
宍戸の許容量は異世界だという時点で破裂、幸村とキヨちゃんとジロちゃんの許容量は当てにしていない、跡部の許容量はあとほんの少しだけ残っていそう。
まぁ不二の許容量はガッポガポに空いてそうだったので、ヤツに後のことは任せることにする。

「ふーん。でも異世界だー地球じゃないーって割にはさっきの僕らと同い年くらいの少年はやけに東京について詳しかったけど?」
「あー。ユーリは、陛下は地球の日本というところでお育ちになっていらっしゃるので今も時々」

コンラートがそこまで言うと部屋の外が段々と騒がしくなってくる。
いや何か騒がしいものがこちらに近づいてきているというべきか。

『あーもう!!なんでヴォルフとギュンターまでついてくるんだよ!?』
『僕はお前の婚約者だぞ!?素性の知れない奴らとホイホイ会わせてたまるか!!』
『わたくしの道は陛下の進む道!どこまでもこのギュンター、お供させていただきますぅ!!』
『えー、二人ともこなくていいよ。俺、久しぶりに日本の話で盛り上がりたいんだからさー。二人にはわかんないだろー?ニンジャーとかセパだとか謀反でござる〜とか』
『なんだ、そのニンジャーだとかは!まさか男の名か!?この尻軽!!!
『わたくし頑張って話をあわせますゆえ!あーー陛下、お待ちになってくださいぃぃぃ』

ものすごくテンポのいい会話が近づいてくる、いやもうテンポだけはいい。
中身はまったくもってひどい。

「本当にあの少年、日本人なの?」
「えぇ、確かに日本人なんですけれど。その、陛下の思考回路は少し我々にも解読しづらいというか」
「そんな感じだね。ここにも似たようなのが一匹いるけどさ」

そういって不二はちらりとジロちゃんとじゃれあっているオレンジ頭に視線を向けた。
そうか、不二でもキヨちゃんの思考回路は理解できないんだとはじめて知った私は空になったカップをソーサに静かに置く。
幸村がおかわりいる?と尋ねてきたが首を横に振って応える。

「コンラート、お待たせー!!」
「ユーリ!聞いているのか!?」
「陛下、皆さんお待ちですよ。さ、早く席についてください」
「陛下いうなー名付け親ー!あ、グウェンも早く入っておいでよ」

コンラートが用意した椅子にちょこんと座り込んだユーリ少年は金髪美少年と変態美青年の後ろに立っていた人物に向かって声をかける。
なんだまだ誰かいたのかと思って私も扉のほうに顔を向けてみたのだけれど。
黒に程近い灰色の髪、ちょっと渋さが残る顔立ち、ガッシリとした体格。

「や、やばい。あれはヤバイ。パパ先生の次にカッコイイ!!!」

なんだかとっても胸にキューンときてしまい思わず立ち上がってしまう。
横で幸村の「でも榊先生の次なんだ」っていう突っ込みがはいってたけれど無視、まったくもって無視。

「お姉さん、ゴッドファーザー愛のテーマ、いやいや、グウェンが好みなの?」
「ユーリ少年、君のネーミングセンスと思考回路はやっぱり私も疑いたくなりそうだけど。まぁいいや、ちゃんと色々話してくれるんでしょ?」
「勿論!えーと、とりあえずは自己紹介からだよね。こっちから紹介していくね」

そういってユーリ少年は部屋の中にいる私たち以外のメンバーの紹介を彼の意見を組み込みながら紹介してくれた。
まぁキヨちゃんと一緒で面白いといえば面白い紹介の仕方だったんだけど、それ以上に一番驚いたのは魔族の歳のとり方だろうか。
いや勿論ユーリ少年が魔族の王、つまり魔王だっていうのも驚いたんだけど(まぁジロちゃんとキヨちゃんは目をキラキラさせながらカッコイイカッコイイ叫んでたし)私たちとたいして歳が変わらないように見える金髪美少年ヴォルフラムと言った少年でさえ、見た目×5の80歳オーヴァー。
コンラートでも100歳オーヴァーで、変態美青年ギュンターにいたっては150歳オーヴァー。
これにはさすがの不二も唖然としていて、宍戸はちょっと興味を持ったのか「へぇ」と言いながらしきりに感心していた。

「じゃ、次はお姉さんたちね。まだ名前も聞いてなかったし!」
「オッケー、えーとまずは私が」
「コレが怪力馬鹿女で有名だよ。それからその横にくっついてるのがフリークの幸村精一、その後ろにくっついてる金髪が芥川慈郎でオレンジ頭で何も考えてなさそうなのが千石清純。となりのテーブルで半ば放心しているホクロが跡部景吾でその隣のなかば影が薄いのが宍戸亮。それで、僕が不二周助っていうんだ。だけ高校二年生で、あとは全員高校三年」

私がちゃんと紹介しようとするのをさえぎって不二が確かに正しいけれど何かが間違っている私たち全員分の紹介をユーリたちにしてくれる。
いや、多分正しいんだよ。キヨちゃんのも跡部のも幸村のも、その宍戸のも。
でも何か馬鹿にされまくってるというか何かが間違えているというか、でも怖いから言わない。
きっと幸村以外全員そう思ってるからこそ何も言い返さないんだと思うんだけど。

「お姉さんが俺のいっこ年上でお兄さん達は二個上かぁ」
「有利は高校一年なんだよね……とてもじゃないけど壇と同い年とは思えないわね」

ポツンと呟いた私の言葉にキヨちゃんとジロちゃんがまったくだとばかりにうんうんと頷く。
この渋谷有利という少年はなんというか高校一年には見えないほど可愛い、確かに本人も野球やってるといってただけに腕とか筋肉ついてるんだろうけどやっぱり可愛い。
事務所にいる一年ルーキー二人はひねくれてるは恐ろしいは生意気だわ非常識だわで、この有利と比べ物にならないのだ。
寧ろなんていえばいいのだろう、比べてはいけないような気さえする。

「おい、ユーリ」
「ほえ、何グウェン?あ、高校生の意味?それなら」

グウェンダルだと紹介してもらったパパ先生の次にカッコイイ人がユーリに声をかける、それに対して「ほえ?」と返した有利に私とキヨちゃんとジロちゃんはキャーと叫び声をあげる。

「ちょっとお聞きになりました、奥さん?」
「いやだ、さん。聞きましたよー、ほえ?だって!ほえ?」
「すっごいカワE!カワイイC!」
「壇がほえ?なんてやってごらんなさいよ、あの壇が!」

そこまで三人で言って一斉に三人で「「「おえ〜……」」」とばかりに気持ち悪そうに口元を手で覆う。

「違う。お前は私にこいつらが地球出身だと言ったな。人間でどうやらこっちに何故か飛んできてしまったらしいとも」
「うん、だって本人達も日本人だって言ってたし他にも色々地球のこと話してたんだけど。なぁ、コンラート?」
「そうですね、とりあえず地球出身ではあるみたいです」

そこまで言うとグウェンダルの既にものすごい寄りまくってる眉間にさらに皺が一本刻まれる。
一体何が問題だっつうんだ。












「お前は地球出身の人間だというが、ならば何故こいつらはこちらの言葉を喋っている?」











問題発生、らしい。