「あとべぇ、チョコください」
両手をぐいと突き出したに跡部も何も言わずにポケットからキレイにラッピングされた袋を取り出し、広げられた両手の上にぽとんと落とした。
「ども、ありがとー」
「来月楽しみにしてるからな」
来月っていうとホワイトデーのことかと、たまたま近くのデスクに座っていた海堂は考えた。
にしてもバレンタインっていうのは、普通女が男に送るもんじゃなかっただろうか。
あのまるで兄と妹、時々ご主人様と下僕のような二人は普通に、至って普通に男から女に贈り物をしていたが、あれはあれでいいのだろうかと疑問に思った。
「手塚パパーちょこれーと!ちょこれーと!」
「・・・ん」
かと思えば海堂の尊敬する手塚まで普通ににチョコレートらしき、これまたキレイにラッピングされた袋を渡した。
そのあともは橘、千石とチョコレートをねだりにいってはしっかりとゲットして。
最後に、あ の 不二のところに行くと彼の目の前に仁王立ちして
「ん!チョコ!」
ガッツリと両手を差し出した。
たまたま同じ執務室にいた裕太がヒィと顔を青ざめさせて二人を見つめていたが、二人はまったく気にならないらしい。
にこりと微笑んだ不二は「今年はハバネロ味だよ」と言いながら、真っ赤な、それはもう真っ赤な箱をの手の上に落とした。
「ハバネロ・・・!!去年より進化してる、確実に進化してる!!」
「去年は普通に青唐辛子だったから、今年は頑張ってみたよ」
頑張らなくていいのに!と泣きそうになりながら叫ぶの後姿を見つめながら、なら貰いになんて行くなよと海堂がらしくないつっこみを心の中でいれた。
でも、どうせこの事務所の初期メンバーは普通じゃない人間しかいないのだ。
やることなすこと全て普通じゃないんだし、と思えばこの奇妙なバレンタインの行動もすんなり受け入れるどころか、見なかったことにさえできるのだとも思えた。