「あ、やべ!」
「どうしたの?キルア」
ぼんやりとレストランの壁にかかっていた時計を見ていたキルアが突然声をだしたことで、食べるのに夢中になっていたゴンとビスケはなにごとだとばかりに顔をあげた。
両手の指をつかいながらブツブツとつぶやいていたキルアだったが、すぐにギャーとあられもない声をあげて頭を自分の手でぐしゃぐしゃとかきまぜる。
「ちょっと!ご飯食べてるんだから静かになさい!」
ゴツンとお約束のビスケの拳がキルアの頭に落ちてきて、キルアはようやく静かになる。
非常に恨みがましい目でビスケを睨んでいるキルアにゴンは再びどうしたのと尋ねる。
「今日、すっかり忘れてたけど2月14日なんだよ!!」
「へ、うん。それがどうかしたの?」
「今日は『ばれんたいんでー』ってやつなんだよ!!やばい、こんなとこにいたせいで何も用意できてねえし、つか会いにも行けねえじゃん!俺ピンチ!チョーピンチ!」
またまたギャーと叫びだしたキルアに今度はビスケの華麗なるアッパーが綺麗に決まった。
さすがビスケと感動するゴンの目の前でキルアはどうしようどうしようと自分の携帯電話を見つめながら呟いている。
「そのばれん・・・なんとかってのは何だわさ?」
「ばあちゃんが教えてくれたんだ、2月14日は男の人から女の人に感謝の気持ちと愛情を込めて贈り物をする日だって。まあ俺んちじゃどっちかっていうと『ばあちゃんに貢物をする日』ってのに近いけど。うわぁどうしよう、絶対に俺だけだ!兄貴もカルトも絶対に思い切り金注ぎ込んでるだろうなー・・・・」
「ムクロさんに?でも俺たちまだG・Iの中だからムクロさんに会えないよ?それにきっとあのムクロさんだもん、キルアがごめんなさいって素直に謝ってちゃんと理由話したら許してくれるよ」
普段ならな、という言葉をキルアは飲み込んだ。
でも多分この日は絶対にダメだとキルアはなんとなく思っていた、なんせこの日のの口癖は
『男は女に感謝してなんぼでしょーが。さささ、貢げ貢げ!』
だったから。
ハンターの世界にバレンタインなんて行事はない、あるのは間違った内容を教えられたゾル家の面々と散り散りになっている某子供達だけなのだ。