Ain't no other man
Can stand, up next to you
Ain't no other man
On the planet, does what you do
You're the kind of guy
A girl finds, in a blue moon
You got soul, you got class
You got style,in you're bad ass
Ain't no other man it's true
Ain't no other man but you
コーヒーのはいったマグを片手に廊下を歩いているとラボで首をかすかに揺らしながら証拠品の服を調べているの姿が目に入る。
ガラス張りのラボじゃ外から丸見えだというのに彼女は気にしていないのか、それともヘッドフォンから流れているのだろう曲に夢中になって忘れてしまっているのか。
多分どころか絶対に後者だろうなとグレッグは笑みを浮かべて静かに静かにラボの入り口に近づいていく。
ドアなんてものはないので外も内も音は筒抜けなのだが、彼女にはグレッグの足音すら聞こえていないのだ。
入り口のところにもたれかかっていると時々見える彼女の口元が動いているのがわかり、よくよく耳をすませばなにかを口ずさんでいるのが聞こえてくる。
Never thought I'd be alright
'Til you came and changed my life
What was cloudy now is clear, yeah yeah
You're the light that I needed, yeah uh
聞こえてきたその歌に思わずグレッグはそりゃないだろとふきだしそうになる。
ソウルフルで気品があってスタイルがよくて悪い男、そんな男じゃなきゃダメなのよ。
歌詞の通りな男をグレッグは知らない、きっと他の連中も知らないに決まっている。
キャサリンにいわせてみれば『夢物語』さえ言いそうだ。
けれどにかかればそんな男が身近にいると言いそうだ、だけじゃなくグレッグ自身の身近にも。
「他の男じゃダメって、そのほかの男には僕もはいっちゃう?レイディ?」
「ワオ、グレッグ!いつからそこにいたの!?」
後ろからこっそり忍び寄ってヘッドフォンを取り上げ覗き込むようにして顔を前につきだせば相当驚いたらしく、は体を思い切りブルリとふるわせた。
その姿にしてやったりとばかりにグレッグはにっこり笑い、質問の答えは?と取り上げたヘッドフォンをの首にかけてやる。
「ていうかあたしの質問に先に答えてよ、いつからそこにいたの?もしかして口ずさんでたの、聞こえた?」
「そりゃ勿論。他の男じゃダメ、この惑星を探してもアナタみたいな人はいないってしっかり耳に入ってきたよ」
そう言えばは最悪としかめっ面でウォークマンのストップボタンを押した。
ここにその男がいたら『しかめっ面のも可愛いよ』とか言うんだろうなとグレッグにはすぐに想像がついた。
その気持ちがわからないでもないがグレッグにははやっぱりそういう対象ではなくて、いくならデートじゃなくてピクニックだなと笑いそうになってしまう。
「さ、今度は僕のばんだよ。他の男にこの僕、グレッグ・サンダースははいっちゃうのかな?」
「さーて、どうでしょう。人の歌を盗み聞きしてるような人なんて知らない!」
「あらーん?じゃあが思いつくソウルフルで気品があってスタイルがよくて悪い男って誰?ちなみに僕はね、このラボじゃ思いつかないね」
「え?」
がグレッグの言葉にまさかとばかりに目を見開いて振り向いた。
その信じられないとばかりのの表情にやっぱりはあの男が全てにおいて当てはまると思っていたのだとグレッグは気付いてしまう。
ご馳走様とばかりに心の中で軽く舌打ちをして、グレッグは思い切り首をすくめた。
には、この大好きな親友には現実を教えてやらなければならない、そしてそれが自分の使命だとすらグレッグは思っていた。
「まあこのラボで働いてる人はみーんなワーカホリックである意味ソウルフルかもね」
「うんうん」
「ウォリックやニックなんかは男としても惚れ惚れしちゃうくらいスタイルがいいし」
「うんうん、あ」
「僕以上の人間はいないだろうけどニックなんかは結構実家が裕福だし気品があるというかそういうとこはしっかりしてそうだし」
「うんうん、ねえ」
「特に悪い男ってのはニックに一番当てはまるよね!なんせ一度容疑者になってこの僕にDNAを調べられたくらいだし!きっとまだ証拠サンプルとして倉庫に保存されちゃってるかもね」
「ふーん、楽しそうな話してるね。グレッグ・サンダースくん」
得意そうな表情を浮かべ饒舌に話していたグレッグの顔が一瞬にして強張った。
目の前に立つの視線はグレッグではなくさらにその後ろに向いていて、どことなく嬉しそうにさえ見える。
ただしグレッグは恐ろしくて振り返る余裕なんてものはない、振り返ればきっとカンカンに怒ったに関して特にソウルフルになる男が立っているのだから。
「なにか見つかりそうかい、?」
「トップとジャケットからは今のところ収穫はなしよ。けどまだズボンと下着が残ってるから今から取り掛かって調べるわ」
「えーと、じゃあ僕仕事のお邪魔みたいだし」
そう言ってグレッグがそろそろとラボから出て行こうとするものの、ポンと後ろから誰かの手が肩に置かれギリギリと思いきり力をこめて握り締められる。
あまりの痛さに叫び声がでそうになるもすぐに「グレーッグ」と自分の名前を呼ばれ、おとなしくハイと返事を返さざるをえなくなる。
「どこに行こうってんだい?お願いしたサンプルのほうはもう出来上がってるのかなぁ?」
「えーと、ファーストレディでしてちょっとまだ立て込んでるかなぁなんて」
「あれー?おっかしいな、俺の言ってるサンプルは確かキャサリンがグレッグに渡したはずなんだけど?」
ギリギリギリギリ。
その間も肩に置かれたニックの手はグレッグの肩に思い切り食い込んでいる、引きちぎられそうな勢いで痛い。
「じゃあ、俺とグレッグはDNAラボのほうに行かなきゃだから」
「うん、なにかわかったら連絡するね」
「了解。さ、グレッグくん。俺と一緒にラボに向かおうか?サンプルは勿論、君とは一度ゆっくり話しておかなきゃと思ってたんだよね、俺」
「は・・・はははは」
きっと傍目から見たら今の自分はブラス警部に連行されてくる容疑者とまったく同じなんだろうとグレッグは心なしか青ざめた表情で廊下に追いやられる。
肩には相変わらずニックの恨み篭った手が置かれたまま。
自分をこの危機的な状況から救ってくれる人はいそうにない。
「さ、行こうか」
いつにもまして目尻に皺を作って微笑むニックのその声はグレッグにとって死刑宣告にも等しかった。