ラスベガス、眠らない街。
あかあかと輝くネオンに途切れることのない人々の騒々しさ。
それは一際高いビルディング、ホテルの中に入ってしまえば一層目立ったものになる。
折角ドレスアップしていても顔を般若のように変化させてスロットに挑む女もいれば、みすぼらしい格好をしたままルーレットにいそしむ男もいる。
アルコールの入ったグラスを抱えゆっくりと踊るカップルもいれば生で演奏されているピアノに耳を傾けているカップルもいる。
休日のような時間を過ごす人間が大半のこのカジノがあるホテルの中でせわしなく働いているのはホテルの従業員くらいかと思われるが、今日に限ってさらにもう何人かそのせわしなく働き蜂のように働いている人間が加わっている。

「もうすぐ3時だっていうのに皆さん元気なことで」
、顔がとっても不細工になってるわよ」

悪態をつきながらサンプル回収にいそしむとサラ、夜もいい時間だというのにカジノの上にあるホテルで事件があったのだ。
そういうサラも不細工予備軍になりかけよという言葉はがサラの顔を一瞬見たことでしっかり胸の奥にしまわれた。
イライラする気持ちはわかる、なんせかれこれ事件が2つ立て続けにはいっていたのだ。
科学捜査官は年中まともな睡眠がとれない、とれなくても空いた時間やどうにかこうにか少しでも時間を作って睡眠時間を確保するのだが今週はその確保がほとんどできなかった。
睡眠不足からくるストレスはサラは勿論、にも容赦なく襲い掛かってきておりキャサリンたちの現場から駆けつけるというグリッソムとウォリックがいまだやってこないという現状がさらに二人の機嫌を悪化させている。

「向こうの事件は集団暴行だったんでしょ、そりゃサンプル回収も数が多いだろうし犯人確保も大変かもしれないけど!この時間渋滞なんてありえないんだから早く来てほしいわ!」
「それは申し訳ない、。これでも一応ウォリックがレーサーのごとく飛ばしてくれたんだが?」
「うへあ!主任っ!?いつからそこに・・・」

頭上から聞こえてきた声にしゃがみこんでいたとサラは飛び上がるようにして体をふるわせ、にいたってはおかしな叫び声をあげるばかりだ。
バクバクと動く心臓をおさえるように胸元に片手をやっているに少し猫背気味のグリッソムは少しニヤリと彼らしくない笑みを浮かべると「さあ仕事だ」といって奥の現場へとひょこひょこ歩いていく。

「最近ますますグレッグに似てきてないか、・・・」
「ちょっと、これ以上グレッグが増えると困るんだけど!ラボに帰ったらアーチーまでグレッグみたいになってるとか恐ろしくて考えられないわよ」
「・・・二人揃ってひどくない?」

ルームドアから大きな体をのぞかせて部屋の中にはいってきたウォリックは呆れた表情を顔に浮かべ肩をすくませた。
彼の言葉にサラはとびきり眉をひそめただけでは足りないらしく、顔全体をつかってしかめっ面をしている。
小さな頃は図星をさされたり自分の思い通りにいかなくなれば両頬を膨らませて顔で思い切り「あたしは不満よ!」と表現していたがこの歳になるとそうもいかない。
口をとがらせるだけにとどめておいただがその仕草すらウォリックやサラにしてみれば幼いと思えてしまう。
本人にそのことを告げたことは一度足りともないが。

「いいわよいいわよ、好きなだけ言えばいいんだわ!そのうち=サンダースになってやる!」
「ニックが壊れるからそれはやめたほうが・・・まあもう既に壊れてるけど」
「どうでもいいけど、回収終わった?あたしの方は終わったんだけども終わったのならこっちのサンプルもってラボに一度戻ってちょうだい。そこのレーサー使えばいいから」

くいっとサラの親指で指名されたグリッソム専属レーサーは途端顔をしかめ「俺にまた運転させる気か!?」と肩を落とした。
はというと主任専属レーサーを使っていいと姉貴分であるサラから許可が(勝手に)おりたことでラボに帰る支度をはじめてしまっている。
サラから受け取った黄色の証拠品の袋を自分のケースにしまいこみ笑顔でウォリックに向かい合うにウォリックは反論することもできず、ズボンのポケットにはいっている車のキーの存在をぞんざいに確かめた。





























男はあせっていた、そして脅えてもいた。
『伝統』というのは守るべきものであり破るべきものではない、今更になって男は理解した。
しかし男の住む世界のさらに外の世界は常に『伝統』というものを打ち破りながら革命をおこしながら発展しているのだ、現在進行形で。
だからこそその行為を自分の世界に当てはめても大丈夫だと思っていた。
いや、かたくなに信じていた。
だからこそ男はこうして仲間たちからもたらされる話に体中の血の気が失せていく感覚を味わっているのだ。





真似事はしょせん真似事、本物にはなりえないのだと。