「つまんないの」
「なにがつまんないんだい、膨れっ面ちゃん」
「最近銃を使った犯行が少ないんだもの。ナイフ、窒息、ナイフ、劇薬の殺虫剤、これがここ2,3週間の私が扱った事件の凶器。どーこにも銃はありません」
「膨れっ面ちゃんたら犯罪促進してる?主任に聞かれたらマズイよー?」
「わぁかってますぅ、事件はないにこしたことはありません!でもそうしたら私ってばずっとマイ拳銃ばっかりいじくってなきゃいけなくなるじゃない?家のも整備終わっちゃったしつまんない、新しいの買おうかなぁ」

作業の手を止めては夢見心地にグレッグの目の前で上を仰いだ。
彼女の口からは次々と銃の名前がでてくるがどうやら買いたい拳銃リストのようだ。
ガンマニアもガンマニアいいとこだとグレッグはまだ自信の手元にすらやってきていない未来の銃にうっとりしちゃっている彼女のデスクを挟んで反対側で椅子に座って自分ブレンドのコーヒーを口にしている。

「二人とも自分の仕事ちゃんとやってるか?グレッグ、お前キャサリン達にDNA検査頼まれてなかったか?こんなところで油売ってて、きちんと仕上がってるんだろうな?、お前も不思議ちゃんモードになるのは仕事をこなしてからにしてくれよ」
「ひどい、ウォリック!あたしはちゃんと自分の仕事やってるわ、ひどいひどい
「ひどい、ウォリック!ボクもちゃんと自分の仕事やってるよ、ひどいひどい
「あぁもう二人揃って勘弁してくれよ!優秀なのはわかったからニヤニヤ笑ってないでグレッグはキャサリンたちのところへ行っちまえ!」

心友と自他共に認めるグレッグとだ、二人の息はいらないところでもピッタリあっていてそんな二人にウォリックはファイルを抱えてさえなければ頭をかきむしっていたかもしれない。
とグレッグ、一人一人だとそうそうイライラさせられることはないのだが二人揃うとこうもイライラさせられるのはある意味既に特技なのかもしれない。
この二人の攻撃に耐えられたのは今のところ主任であるグリッソムと馬鹿のニックだけだ。
前者は明らかに興味がなくどうでもよいとばかりに二人をあしらうが、後者の場合は少し事情が違う。
しか眼にはいっていないため『とグレッグ』ではなく『』がメインになっているのだ。

「はーいはい、行きますよぉ。なんだよ、そんなにカリカリしちゃって。カルシウム足りないんじゃない?」
「バカ!俺がこんなにカリカリしてるのはお前達のせいだ!」
「そうなの?うーん、じゃあボクはウォリックがプッチンしちゃうまえに退散退散。頑張ってね、〜」

ひどーいと口をとがらせながらグレッグの背中に向かって言うだが、ウォリックの軽い咳払いにその視線を徐々に下にずらしていく。
気まずそうにチラと上目遣いに見てくるの姿に思わずため息が出てきそうになるのは、このラボにそんな可愛い仕草をする女傑が一人もいないこととその仕草がまたに似合っているからなのかもしれない。
先程とんでもないことが判明しウォリックの機嫌は下降気味だったのだが、とりあえずのその見た目(だけ)可愛らしい姿にこれ以上は下降しないかもしれないなとの隣にまでやってきてウォリックは考えた。

「それで?なにか見つかった?」
「赤い繊維が何本か、あとブロンドの長い髪を一本。毛根はなかったからDNAは抽出できないんだけど、被害者の髪は黒に近いし短かったから明らかに誰か他の人が被害者の傍にいたみたい」
「長い髪か、女か?」
「もしかしたら髪の長い男かもしれないでしょ、偏見の目で見ちゃいけません。サラたちがホテルで精液を見つけてきたらわかるかもね、男か女か。赤い繊維はとりあえずホッジスに渡しておくね」
「オーケー、俺が持ってってやるよ。ところで、主任見なかったか?もう帰ってきてるはずなんだけど、さっきから呼んでるのに捕まらないんだよ」

から赤い繊維のはいった袋を受け取ったウォリックはそのままガラス張りのラボを出ようと体を反転させたところで、肝心の用件を思い出したかのようにに尋ねる。
主任?とは口にするとすぐにふるふると首を横にふる。

「ロビンス先生から被害者の服を受け取ってからずっとここにいたから主任が帰ってきてることすら知らなかった。そういえばウォリックは今まで何してたの?」
「ん、ああ、俺はデイビッドから受け取ったIDカードのほうから身元を調べようとしてたんだ。免許証とか写真付のものは見当たらなかったんだがどうやらどこかの企業の社員カードが財布に入っていたからな」
「そうなの?で、身元はわれたんでしょ?」

首を少しかしげて問うにウォリックは苦味を潰したような顔をに向けた。
彼の表情にどこかあまり良い予感がしないは小さく「なにか困ったことでも?」と口を開くも、ウォリックは「あー」とか「うー」とか言いにくそうに渋るだけだ。
なにをそんなに彼が言い渋るのかさっぱり検討もつかないはこれがニックだったりキャサリンだったりしたらウォリックの考えてることとかもお見通しなのかしらとどこか見当違いなことを考えている。
右手で抱えているファイルで自分の首を軽く叩いているウォリックにはそんなの考えなんてわかるはずもないのだが。

「ウォリック、私を呼んでいたと言っていたが何か?」
「「主任!」」

そんな二人の前にひょっこりと顔をだしたグリッソムのタイミングは最良のものだったのかもしれない。
自分の名前を呼ぶ二人の部下に眉一つ動かさずにどうしたと尋ねるでもなく、グリッソムは開口一番に「なにかわかったか?」とのたまった。
軽く先程見つけた繊維と毛髪のことをは先にグリッソムに報告し終わるとちらりと傍らにたたずむウォリックに視線を向ける。

「ならは繊維をホッジスに預けてサラと一緒に凶器の割り出しにあたってくれ。ロビンス先生によると被害者の死因は窒息だ、しかもどうやらかなり細いロープのようなものらしい」
「窒息、ですか?写真を見てみないことには始まりませんよね。サラが首の鬱血痕の写真とってますよね?じゃあ一緒に凶器のほう当たってみます」
「ああそうしてくれ。で、ウォリック。君の話を聞こうか?」

ラッテクスのビニール手袋を外しながらの視線は相変わらずウォリックに向かっている。
先程から自分の前で言い渋っていることをどうにもこうにも聞かなければこのラボからサラのもとへ向かうつもりはないらしい。

「現場のデイビッドから被害者のズボンのポケットにあった財布を預かりました。中に免許証は見当たらなかったんですが社員カードのようなものがあったのでそっちで検索をかけてみました」
「それで?」
「カードには顔写真はありませんでしたが名前は書いてありました。それによると被害者の名前はヒューゴー・タヴァナー、社員カードを発行している企業のほうはニューヨークに本拠地をおく貿易メインのガワー・コーポレーションという会社です。どうやら外資系の企業のようで、企業自体は大きなものではないようですけど規模は大きいです。東海岸には結構支社があるみたいですから」
「ヒューゴー・タヴァナー」

グリッソムが被害者の名前を確認するかのように一度口にのせる。
ウォリックが持っていた右手のファイルの中から何枚か紙を取り出しそれをグリッソムに差し出す。
も興味津々とばかりにグリッソムの手元にある紙をひょいと覗き込む、ウォリックはの行動に思わずオイ!と声をかけそうになるもののグリッソムが何も言わずその状況を享受している時点で『触らぬ神に祟りなし』だ。

「そのガワー・コーポレーションという会社はベガスにも支社があるのか?」
「いえ、ベガスにはないようです。主に東海岸が中心のようで」
「じゃあこの被害者、旅行でベガスにやってきたのかしら?それでカジノで意気投合しちゃった行きずりの女とベッドインってとこかなぁ」
「お前、さっき男かもしれないって言ってなかったか?まあとにかくですね・・・・旅行者じゃないみたいです、この被害者」

ウォリックのその言葉にん?とばかりに紙面に目を走らせていたグリッソムとが顔を上げる。
ああそういえばベガス変人ナンバー3のうち2人も俺の目の前にいると今更ながらに気付いたウォリックは先程逃がしてしまったグレッグをやはりここに逃がすべきじゃなかったと少しだけ後悔した。

「旅行者じゃないとは?」

グリッソムの自然な問いかけにウォリックはゴクリと唾を飲み込み、ようやく口を開いた。







「それが・・・そのヒューゴー・タヴァナーって奴、3日前にニューヨークの自宅で殺されてるみたいで」







そういって差し出された新しい紙面を受け取ったグリッソムとはお互いの顔を見つめパチパチと瞬きをするとすぐにその紙面に目を走らせた。
しかし何回読み返そうともプリントアウトされた紙には『本物』のヒューゴーの写真と彼が殺されたという自宅の写真、そしてその内容がはっきりと書かれてあった。