「やっぱりあぶない、生命保険の選び方」の危ない内容


最近、「やっぱりあぶない、生命保険の選び方」(藤原龍雄著/三五館刊、1,050円)という保険本を買ってみました。
「保険会社が損なことをすると思います?」という刺激的なサブタイトルが、興味をそそります(損なことをすれば倒産しますから、そもそもどんな会社でも、保険会社でも、共済組合でも、損なことを自らするわけがないのですが、この辺から読者への刷り込みは始まっているのでしょう)。
全ページカラー刷りで、イラストも豊富、非常に取っつきやすいイメージの保険本です。

でも、一読して吃驚しました。
この本の72ページまでは、じつは序章みたいなものなのです(実質89ページの本にもかかわらず、です)。
72〜87ページ(つまり通算18ページ)の内容が、この本のすべてで、他の内容は付け足しでしかありません。
そのうえ、実はこの72ページ以降の内容は、読者に気づかれないように、本の性格が“客観的な内容”から“主観的な内容”へ、がらりと変わってしまうのです。

どう変わってしまうかというと、この自称“保険のプロ”である著者の“お勧めの保険プラン”(この本では「保険のプロがたどり着いた最高の保険」といっていますが)こそが、今話題の“無認可共済”だというのですから、驚きです。
71ページまでは、普通の保険本ですから、その流れのまま72ページに到達したときには、読者の意識は「イエス」としか言えない心理状態になっています(この心理を利用したセールステクニックを「フット・イン・ザ・ドア」といいます)。
したがって、72ページ以降からいきなり始まる“無認可共済”の記述について、読む人が読めば疑問だらけの“言い訳のような解説”も、それなりに肯定的なイメージで捉えてしまいかねません。
という点から、おそらくこの本は、E共済(おそらくは、“エキスパートアライアンス共済”のことかと推測されますが)を販売する際のツールとして、使われるのでしょう。
そんな本を買ってしまった私は・・・。

それでは、具体的に、どんな記述が一見客観的に、でも実際は主観的に記述されているのか、列挙してみましょう。


●私は共済に注目しています
共済制度が相互扶助が目的で、生命保険は利益追求が目的という、非常にステレオタイプな視点が、まず目を引きます。
具体的には、生命保険会社は、大きなビルを建て、外務員(生保のおばちゃん)の人件費、CM・キャンペーンの費用、会社の利益、不良債権の返済などの運営費に保険料を充てているため、実際に保険料が契約者のために役に立っていないといいたいようです。
一方、共済については、運営費が“MLM方式”のマーケティングによって大幅に削減できているため、生命保険の半分の掛け金で済むと、そのメリットを強調しています。

ところが、ここで2つのすり替えがあるのです。
まず、ここで取り上げている共済は、あくまでも“E共済”(エキスパートアライアンス共済というと、この本の正体がばれてしまうため、わざと共済の名称をぼかしていると思われます)という「無認可共済」のことであり、いわゆる「認可共済」は“MLM方式”などで募集活動を行っていないにも関わらず、すべての共済が“MLM方式”を活用しているかのように、誘導している点です。
もう一つは、突然何の脈絡もなしに“MLM方式”なるマーケティング手法が登場し、その“MLM方式”こそが、無認可共済の掛け金を劇的に安くできる魔法の呪文のように、誘導している点です。

まず、共済の有利性についてですが、共済といえども損をしては破綻してしまう訳ですから、利益(適正な利潤)の追求をしないというのは嘘でしかありません。
いわゆる認可共済は、様々な労働組合の幹部の天下り先であり、そのような費用や人件費はもちろんのこと、責任準備金を積み立てたり、再保険をかけたり、また宣伝・広告(新聞の折り込み広告やポスティングなど、盛んに宣伝活動を行っています)にもかなりの費用がかけられており、経営という側面から見れば生命保険も共済も違いはありません。
あるいは、“相互扶助”の精神に関しても、生命保険と共済に違いはありません。
これで、共済が生命保険より、契約者思いである、といったイメージは誤りであるということはご理解いただけるでしょう。

そのうえで、まるで一般的な共済の優位性について解説しているように見せかけて、実は、“MLM方式”のマーケティング手法を活用している“E共済”の優位性に話をすり替えているのです。
でも、そもそも“MLM方式”って、何でしょう。
それについては、84〜85ページに「最新のビジネスモデル=ネットワークビジネス」と、わざわざ項目をたてて、一生懸命、いかがわしくないものだということをアピールしているようです。

●最新のビジネスモデル=ネットワークビジネス

この項目では、「最新」「ビジネスモデル」「ネットワーク」、そのうえに「ハーバード大学」といった、虚仮威しの言葉を網羅して、“MLM方式”のいかがわしさを払拭しようとしています。
でも、考えてみてください。
「オレオレ(振り込め)詐欺」だって、立派なビジネスモデル(そのうえ“最新の”)です(ハーバード大学でも研究対象となるかもしれません)。
“MLM方式”は、「マルチ・レベル・マーケティング」という名称の略ということが分かれば、それで十分といってもいいでしょう。
そう「マルチ」なのです(もちろん、「ねずみ講防止法」には触れないようにはなっているでしょうが)。
「親が子を、子が孫を」と、加入者を募集していく形態なのです(例えば、子が孫を加入させた場合、子に販売手数料が支払われるのはもちろんのこと、親にも配分される)。
それが、運営費を大幅に削減させる有効な手法ということなのですが、皆さんの感想は、いかがでしょうか。
少なくとも、親が一番儲かるシステムということからして、加入者の利益より、共済を運営している側(ここが究極の“親”ですから)の利益を優先させてシステムであることは、はっきりしています。

このマルチ的な共済の加入が問題となり、金融庁はわざわざ保険業法まで改正したのです。
にもかかわらず、この“MLM方式”は、ネットワークビジネスの進化形であり、洗練されているというのです。
また、著者は「運営者の方針次第で最高のものにもなれば、犯罪的なものにもなる」と記述しておきながら、なぜか“MLM方式”のメリット面のみを強調しているように感じられます。

●無認可共済はあぶない?

82ページでは、これまた懸命に、「無認可共済」の安全性を訴えています。
2006年からは改正保険業法が施行されることで、「無認可共済」も「少額短期保障事業者」(登録制)あるいは「保険会社」(免許制)へ移行する必要が生じることから、その経営内容まで国のお墨付きがあるかのように記述されています。
「国の許認可=安全、ではないものの」という一文は見られますが、むしろこの一文を入れることで、この後に続く文章「この改正によって、保険契約者が保護されるのであれば、業界全体のためにもなるでしょう」によって、少なくとも国が“契約者を保護”してくれるかのように勘違いさせているテクニックは、流石です。

●あぶない共済、よい共済の見分け方

まとめとして、よい共済のチェック項目6カ条が、列挙されています。
この本の肝は、おそらくここでしょう。
その項目をすべて満たしている無認可共済で、“MLM方式”を活用しているのが、唯一“E共済”のはずなのですから。

1.加入者の人数は充分か:10万人が目安
2.掛け金を再共済しているか
3.再共済先の格付けは:A以上の格付け
4.配当額が高すぎないか
5.70歳以上保障が続くか
6.積極的な情報公開は:透明性の高い共済は、健全な経営をしている割合が高い

ところで、情報公開といっても、その内容に裏付けがなければ意味がないわけですが。

以上の内容を、まとめてみましょう。
この本の読者は、結果として、次の流れで、“E共済”を「うまい話」として、選択することになる訳です。
某生保のTV−CMのように、肝心な情報は一切提供しないことで、勝手に視聴者(読者)が勘違いするように、非常に良くできています。

■共済は相互扶助
  ↓
■運営費が安い
  ↓
■MLM方式マーケティングの優位性
  ↓
■MLM方式は、最新のビジネスモデル
  ↓
■MLM方式は、運営者次第で最高にできる
  ↓
■無認可共済も許認可によって、国のお墨付きが
  ↓
■6カ条のチェックポイントで、よい共済を見分ける
  ↓
■結果として“E共済”は、よい共済

ただし、すべての内容は“ゲリマンダー”でしかありません。
前提条件は、著者によって都合の良い“こじつけ”であって、必ずしも“E共済”がよい共済である訳でも、最高の保険商品である訳でもない、そのことはお分かりいただけたと思います。

保険本の中には、このように、特定の商品や生保(共済)に誘導するためのものが、間々見受けられます。
ご注意ください。

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