生保コンサルティング的「バカの壁」

あなたの不安は、“ボタンの掛け違い”が原因だったかも?



昨年のベストセラー「バカの壁」の第3弾、「超バカの壁」(養老孟司著、新潮新書、680円)を発売と同時に読んでみました。
今回の「超バカの壁」は、具体的な社会問題について、解剖学者であった著者が“脳味噌の癖”という視点(大脳生理学的見地)から、1題読み切り形式で回答しています。
一読してみて、その回答のエッセンスが、生命保険の検討の際に、皆さんを困らせている(悩ませている)問題にも応用できることに気がつきました。
要するに、私がコンサルティングで相談者にお話しするエッセンスが、元東京大学医学部教授という権威によって裏付けられていたのです。
一FPの話では信用がおけなくても、脳味噌についての専門家で、かつ元東京大学医学部教授の話なら、皆さんも信用してもらえるのではないでしょうか。

そこで、「超バカの壁」中のフレーズを抜き出し、生命保険コンサルティングの視点(皆さんにとっては、コンサルティングの際の心構え)から、私なりに見直し、まとめてみました。
できましたら、「超バカの壁」全文を熟読した上で、抜き出したフレーズを味わっていただければと思います。
なお、「超バカの壁」のエッセンスには、数字的な裏付けは一切提示されていません。
あくまでも、解剖学者として、あるいは人生の先輩としての経験が根拠となっています。
なぜなら、私たちは“脳味噌の癖”で、右往左往しているだけなのですから、ということなのでしょう。





「相談するときに、具体的な答えを期待する人がいる。それはおかしい。自分のことは自分で決めるので、相談とは、根本的には『考え方』についての疑問である。他人に伝えることができるのは、『考え方』だけである。具体的な事情は、じつは当人しか知らないからである」(3ページ)
→ 丁寧なコンサルティングは、いろいろなニーズを聞き出してくれるもの、と勘違いしている方がたくさんいますが、それはFPがセールスとして、売りつけるために情報を集めているに過ぎません。
ニーズなんてものは、FPからライフプランニングと称する「情報収集」の際に押しつけられて(誘導されて)気づくものなのではなく、予め自分で考えておくべきものなのです。
コンサルティングは、そのニーズについて他人の意見(セカンド・オピニオン)を確認するためのものでしかなく、ニーズが分からない人に答えを与えてくれるものではありません。

「『これだけ一生懸命やっているんだから、もうちょっと辛抱しなさい』と大抵は言われます。それで、その通りにしていればいいのです。ただしその場合でも『あの人が言ったから我慢していてやったんだ』と責任を他人に被せるのは間違いです。そこで選ぶのは、もちろん自分なのですから」(29ページ)

→ よく、コンサルティング中に、「あの人のお薦めでこのプランにしたのに、そのせいで大損した」という方がいます。
が、そういった人に限って、その失敗の経験を生かそうとしません。
失敗した原因は、自分でプランを選択しなかったせいなのに、プランを勧めたFP(セールス)のせいにして、納得しようとするのです。
そういった生命保険プランを自分で考えようとせずに、丸投げする人は、まず生保のおばちゃんにカモにされ、ならば、おばちゃんは信用できないと外資系セールスに相談してカモにされ、そのあげく老後に外資系で通販ならば「うまい話」があるはずと思いこんでにカモにされることになるでしょう。
ある意味、生命保険会社にとっては、一番ありがたい(儲かる)お客さんなわけです。

「免疫学者の多田富雄さんは『女は実体だが、男は現象である』と言いました。これは男女の違いを実によく言い表した名言だと思います。これに尽きるといってもいい。言い換えれば女の方が無意識に基づいて行動するということです」(61ページ)

→ 生命保険プランの見直しにいらっしゃる奥さん(女)で、「ご主人の死亡保障が足りない」といって相談にくる方はほとんどいません。
皆さん、「こんなに大きい死亡保障が必要でしょうか」とか、「長生きしたときにこそ、役に立つようにしたいのですが」と、長生きをしてしまった場合を前提に、相談にいらっしゃいます。
逆に、ご主人(男)は、死亡保障が大きい保険プランの方が、役に立つと考えていて、早死にしたときに得する保険プランを選ぼうとします(つまり本来は、早死にするリスクよりも、遙かに大きいはずの長生きしてしまうリスクを、あまり考えようとしません)。
実際は、働き盛りの男性が60歳までに死亡するリスクは数%なのにも関わらずです(女の方が男より、死亡リスクが低いことは間違いありませんが、その差は2倍まではありません)。
その意味で、女の方が無意識に、本来のリスクに応じた対応を生命保険プランにも求めているということができるのではないでしょうか(男は、生命保険を実体ではなく、“見栄”や“見た目”で選ぶ傾向が強いように感じます)。

「複雑すぎる機械は壊れやすい。だから比較的シンプルな作りになっているのです」(70ページ)
「一般論でいえば『理路整然とした話くらいうそはない』ということです」(167ページ)

→ 生命保険プランも、複雑すぎるものは、思った通りに使えません(つまり、安定性がなく、壊れやすい)。
生命保険は、死んだらと入院したらの保障(一つの条件で必ず給付がある保障)があれば、それで十分です(死んだらは、老後に現金化できるものなら、さらにOK)。
にもかかわらず、皆さんはその必要な保障ではなく、複数の条件をすべてクリアしないと給付されない“おまけ(の保障)”の多さや安さ(安い理由は、リスクが少ないからでしかないのですが)で、保険プランを決めようとしがちです。
でも、“おまけ”は、皆さんが思っているほど簡単には給付されません(典型的なものが「3大成人病と診断されたら・・・」というあれです)。
一つの条件で必ず給付されるわけではないからです。
でも、そんなプランになってしまうのは、皆さんが欲張りだから、というわけでもありません。
実は、プランを複雑にするのは、FP(セールス)の側に理由があるのです。
プランは、複雑にすればするほど、仮定をたくさん盛り込めば盛り込むほど、皆さんは自分だけはうまく保険プランを活用できると勝手に勘違いしてくれるのです(客観的には、わずかな人だけ大当たりして、ほとんどの人が大外れをするのですが)。
安くていい保険プランに見えてくるのです(そんなうまい話は、生命保険といわず、金融商品といわず、人生にはないことが分かっているはずなのに、新商品といわれる騙されてしまうのです)。
人生が思い通りに行かないから生命保険に加入しようとしているはずなのに、なぜか、加入する生命保険だけは思い通りに使えると勘違いして、すばらしいプラン、うまい話と思いこんでくれるのです(ただし、そのうまい話が、「画に描いた餅」であったことが、老後になればわかってしまうのですが)。
また、複雑なプランの方が、FP(セールス)が丁寧に設計しているように見えますし、知識や情報があるように見えるものです。
つまり、優良誤認(プランもですがFPに対しても)をさせるために、複雑にしているのです。
だからこそ、そんなFP(セールス)の自己満足のための、一見理路整然としている複雑なプランにつきあう必要はありません。

「世論調査は怪しい」(104ページ)

→ 世論調査を、アンケート、ランキングに読み換えてみてください。
アンケートは質問項目で、何とでも結果を誘導できます。
TV−CMやパンフレットに出ているアンケート結果などは、ある結論を導き出すためのものであって、決して統計学的に“確からしい”ものではありません。
また、ランキングも同様です。
項目建てによって、ランキングの結果は簡単に変わります。
つまり、ある意図があれば、最初から結論ありきのランキングを作ることもできるのです。
ランキングの指標項目が毎回変わる、そんなランキングは、自らそのランキングが信頼できないといっているようなものです。
で、その次のページに、ランキング上位の生保の広告が出ていたりする訳です(それを世間では“出来レース”というのですが、出版社も新聞社もTV局も、消費者よりスポンサーが大切であるということを予め理解しておきましょう)。
そんなものに踊らされるのはやめましょう。

「原則がないのはプロではありません」(145ページ)
 「結局自分がしっかりしないと出来ない。しっかりするということが原則を作るということです。それが実は倫理なのです。仕事に関わればそれが職業倫理ということになる」(146ページ)

→ 「“プロが選ぶ”保険商品ランキング」なんてものを見かけますが、この“プロ”とはどういった方でしょう。
少なくとも、上記の言葉から見た場合、“プロ”と呼べる人は一人もいません(ランキングを考えたFPも、その企画を考えた編集者もです)。
なぜなら、そのランキングや商品選択から、原則を感じることが全く出来ないからです。
単に、読者のニーズを網羅したように見せかけ、ニーズ別にランキングを行っているだけで、それまでの経験に裏打ちされた原則に基づいているようには、とても見えません。
“皆さんのニーズに合わせたらいい商品が、きっと見つかりますよ”といって、メリットのみを羅列し、ある商品がよく見えるように項目建てをして、一見公正に見えるようにランキングを作っているだけなのです(「皆さんのニーズに合わせますよ」というコンサルティングにも“原則”があるように見えるかもしれませんが、そのレベルなら、皆さんがたくさんパンフレットを集めれば事足ります。したがって、そのコンサルティングに“原則”があるとは言えません)。
この姿勢は一見すると問題ないように見えるかもしれませんが(どこのランキングも同じですから)、実際は、読者が商品選択を勘違いしてしまっても、あくまでも読者の「自己責任」として、倫理的にも責任をとるつもりがないと、臆面もなく表明しているのと同じです。
本来、“プロ”であるなら、少なくとも生命保険について、絶対に勧めないプランがあってしかるべきですし、あるいは、何年かした後で「もっと良いプランが出ました」なんて言えるわけがありません。
その“原則”があって初めて、倫理責任を全うすることの表明となるはずなのに・・・。
あなたのニーズがこれなら、あれもいいと思うし、これなんかもいいかもしれませんし、それなんかは新商品ですし、なんて“プロ”ならば口が裂けてもいわないでしょう(でも、ランキングって、その程度のレベルのものなんですが)。
だからこそ、万が一クレームを受けたとしても、“プロ”ならば、きちんと原則に則って対応が出来るのです。
今度、FPに会ったら、まず「うまい話」を聞くのではなく、そのFPにとっての生命保険の“原則”を聞いてみてください。
「皆さんのニーズが分かれば、ぴったりのプランが自由自在に作れます」なんて答えは、もうお分かりですよね。
そのFPが、どんなに立派な資格を持っていても、どんなに豊富な経験があっても、“プロ”とはいえません、と私は思います

「小数点以下を切り捨てるか切り捨てないかの違いでまったく正反対の答えが出てしまう。(中略)結局、現実には完璧に正確なデータというのはないので、どこかで切り捨てをせざるを得ません。これは我々が理論で考えていることと、実際の正解というものはもっとはるかにややこしいものだということです。だから、式が完璧に理論的に正しくても具体的には使えない。予想が出来ない。」(158ページ)

→ 生命保険プランを考える際に、FPの方が皆さんのニーズを聞き出して、ライフプランニングや必要保障額などを算出してくれます。
一見、懇切丁寧で、生保のおばちゃんとは違うような気がしますが、あくまで、これは一つのゲームだと割り切って考えるべきです(こんなに欲張ると、すごい必要保障になってしまうんだなあ、とか)。
まず、ニーズ自体が自分の本来の姿や希望ではなく、FPによって、無理矢理に引き出されることがあります。
そのうえ、ライフプランニングや必要保障額を算出するプログラム・ソフトが、各社バラバラで、その理屈も千差万別です。
同じニーズを入力しても、まったく違った結果となって、ライフプランニングや必要保障額が算出されてしまうのです。
したがって、私は、それらのライフプランニングや必要保障額を活用した生命保険プランの設計は、そのFPやセールスが、売りたい形のプラン(つまり儲かったり、いい成績になるプラン)を勧めるためのツールでしかないと思っています。
“パソコンからでた数字だから正しい”なんてことは、全くありません。
むしろ、パソコンの数値を使って、自分のニーズがごまかされている、そのくらいに疑って見るべきでしょう。

「私たちがはっきりわかっていると思っているものが、実は物差しによって変わってしまうのだということです」(161ページ)
「あくまでも結果は物差し次第だ、大切なのはどの物差しを使うかというルールのほうじゃないかということです」(161ページ)
「客観的な真実があるという形で物を論じてきた。しかしどうやら現実はそうではない。こういう単純な距離という問題、線の長さというような問題でも、客観的な長さなんてものは実は存在しないということがわかってくる」(162ページ)
「客観、公正、中立なんて大嘘だろう、というのにはそういう意味があるのです」(165ページ)

→ 簡単にいえば、良く耳にしする「客観的で、公正で、中立的なコンサルティング」は、あり得ないということです。
なぜなら、「原則がないのはプロではありません」(145ページ)を裏返せば、そのFPがプロであれば“原則”を持っていることになりますが、“原則”は「客観」ではなく「主観」であり、したがって、プロのFPのコンサルティングは「主観」でしかないことになるからです。
つまり、客観的なコンサルティングを謳うコンサルティングは、「“プロ”のコンサルティングとはいえない」ということになる訳です。
とすれば、「客観的で、公正で、中立的なコンサルティング」を謳うコンサルティングの広告は、自ら“アマチュアなコンサルティング”を標榜しているわけで、こんなに恥ずかしいことはないはずなのですが。
繰り返します。
「客観的で、公正で、中立的なコンサルティング」は、少なくとも、プロのFPによるコンサルティングでは、あり得ません。

「日本の社会では東大の教授が言ったから正しいというような言い分が通用するところがある」(178ページ)

→ 有名な新聞が、雑誌が、評論家が書いているから、言っているから、ランキングしているから、といった理由で、生命保険プランは決めない方が良いでしょう。
それらは、あなたにとって、プロとしての原則がありません。
したがって、あなたが苦情を言っても応えてはくれません。
であるなら、家の次に高額な買い物である生命保険プランを検討するのに、上記のようなものは参考にならない、といえるのではないでしょうか。



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