積立利率変動型 5年ごと利差配当 の比較例


更新:2011/04/08
積立利率変動型と、5年ごと利差配当(ちなみに、5年ごと利差配当は損保系生保だけの取扱商品ではありません。現在では配当商品の主流です)の違いについて、問い合わせが多いのですが(私は両者に大きな差はないと考えており、商品そのものや取扱生保で判断されるように回答しております)、特にあるHPに記載されていた比較表の記述内容についての質問をいただき、そのHPに多少誤解があるのではないかと(どう考えても、積立利率変動型終身保険を勧めている生保の方が記述したように)気になる箇所があったため、私なりのコメントと、併せて具体例(代表的な生保の例)による比較をしてみました。


<5年ごと利差配当についてのコメントに対する疑問>

「5年間の運用のプラスだけでなく、マイナスまでも契約者に帰属させて、保険会社のリスクを減らしている商品。保険料は、有配当より安くして、見た目努力しているようにしている運用利率は固定


と、そのHPには記載されているのですが、「見た目努力しているようにしている」などという表現には、悪意が感じられます。
むしろ、三利源配当(これまでの一般的な配当で、死差、費差、利差から配当する方式。有配当ともいう)という、悪くいえば丼勘定といってもいいような保険料設定(死差と費差を多めに見積ることで、利差配当よりも保険料を高めに設定)と配当水準の設定(これまでは、運用や経営状態の差があっても、横並びで配当することが多かった)により信頼性を失いかけていた配当というシステムを、利差配当のみに絞り込むことで、保険料の低廉化と、配当本来の機能(保障額と解約返戻金の価値の減少を補填すること)の確保を実現させた、と私は評価しています。
また、三利源配当のように、利差のマイナス分(逆ざや)を、本来は契約者に還元すべき死差と費差のプラス分で穴埋めしているような配当の丼勘定は、利差配当では想定できません(利差配当の場合、予定死亡率や予定事業率は、マイナスにならない最低レベルで設定)。

次に、「マイナスまで契約者に帰属させ」という表現についても、利差配当についての理解不足を感じます。
というのは、無理な配当で経営状態を悪化させること自体が、契約者にとっては最大のマイナスになるわけですから、5年間の配当のプラスとマイナスを差し引きして契約者に払うという発想は、契約者の権利を奪うようなことではないはずです(生保は、予定利率での運用は約束していますが、配当の水準は約束ではありません)。
むしろ、プラスかゼロ(0)しかない三利源配当(有配当)の方式で経営状態を悪化させた生保があるということからすれば、マイナスが悪いということでもなく、マイナスがないということが良いわけでもないと思います(考えてみると、積立利率変動型もゼロかプラスかですから、積立利率変動型と全く違うように見える三利源配当も、実はセールスのトークは10年一昔なのかもしれませんね)。
なぜなら、配当の目的は、価値の増加ではなく、価値の減少の防止だからです

さらに「運用利率は固定」という表現ですが、これも予定利率が確定(つまり、下がることはない)していることを「固定」と表現することで、将来、市場金利が上昇局面に転じた際にも運用がプラスにならないような誤ったイメージを与えていますが、もちろん予定利率以上の運用ができれば配当で還元され、プラスになるのですから、固定という表現にはかなりの問題があるでしょう。


<積立利率変動型についてのコメントに対する疑問>

「この保険は、運用の結果によりダイレクトに積立金に反映させ、解約返戻金や保険金が変動します。
予定利率を上回る運用を行った場合、単月ごとに反映します。
また、一度積立てられた積立金は
運用にかかわらず減少しません。運用実績が予定利率を下回る場合は、予定利率で運用したとして積立金に反映します(最低保障)。
一般勘定商品ではありますが、ほかの保険種類と分離した勘定を設けており、積立金のほとんどが長期債にて運用されます。(運用効果が期待できます)
変額保険の株式運用と違い、大きく運用効果は求められませんが、長期の債券での運用なので、安定した運用実績が期待できます
運用結果を保険会社が明確にしていますので、
不明確な有配当・5年利差配当に比べ公正な気がします


いかがですか。
どう考えても積立利率変動型のお勧めですよね(お勧めが悪いというのではなく、お勧めならお勧めということをいうべきということです)。
まず、「運用の結果によりダイレクトに積立金に反映させ」というコメントですが、ダイレクトという表現はどう考えても良いイメージに誘導していますよね(「ダイレクト」であることの具体的な説明がないわけですから。というより、このレベルなら利差配当も「ダイレクト」に配当には反映するわけですし)。

また、「予定利率を上回る運用を行った場合」についてですが、私の手元にあるパンフレットでは「積立利率は〜(略)〜資産の運用実績に基づいて」と記載されています。
とすると、資産の運用実績が悪ければ積立金の増加には反映しない訳で、悪く考えれば、生保としては一度積立金を増加させたら運用がマイナスになっても減額できないわけですから、運用の実績を上げない方が生保にとってはメリットになるのではないでしょうか(顧客のメリットは生保のデメリットです。でも、生保の利益には反せずに、お客にとっては有利に見えるように商品を作る、これが生保のいつもの手ではないですか?しかも、この実績は必ず実行しなければいけない約束、という訳ではありませんし、生保にその点の抜かりはありませんよね?)。
まるで最低保証(私が参照している商品は2.0%)の予定利率を超えた運用が必ず実現するかのように記載されていますが、あくまで予定利率以上の運用は確約ではなく、そうなるかもといった可能性でしかありません(利差配当では、運用は期待できないようにいいながら、積立利率型は必ず運用が予定利率を上回るような記述は、依怙贔屓です)。

さらに、「変額保険の株式運用と違い、大きく運用効果は求められませんが、長期の債券での運用なので、安定した運用実績が期待できます」との記述は、前文の「積立金のほとんどが長期債にて運用されます(運用効果が期待できます)」と整合性がとれていますでしょうか。
「大きく」に違いがあるのでしょうが、実はこの記述は「運用」に関して、誤解しているように、私は感じます。
というのは、変額保険と積立利率型の運用には、変額は株式で、積立利率変動型は長期債で運用されるといったレベルではない違いがあると思うのです。
それは、非常に単純な違いで、変額の運用はあくまでキャピタルゲインによる収益の追求です(市場金利に関係なく収益を上げることが可能)し、一方、積立利率変動型は市場金利に対する連動による収益となり(市場金利に連動して収益を上げる)という違いです(あくまで原則ですが)。
したがって、「運用効果」の記述を変額と比較すること自体がおかしいということになります(ちなみに、このHPでは、変額保険のことを積立利率変動型以上に持ち上げているのですが、「インフレに対応できる」とか、「保険の機能としては最高位水準」という表現も、単にメリットだけ刷り込まれた安易なコメントだと思います。例えば、私は終身保険は「死ななくても老後に使える死亡保障」だと考えていますが、変額終身は「死ななくても老後に使える」金額が確定できないため、場合によっては払った保険料以下になってしまうリスクがあります。この点などを考えると、最高水準とは思えません)。
また、「長期の債券の運用で、安定した運用実績」ということであれば、まるで毎月運用実績によって積立金が増加するようなイメージとの整合性は、どうなるのでしょうか。
というか、「毎月見直す=毎月増加」というイメージは、いったい何なんでしょうか(画に描いた餅?)。

そして、とどめですが「運用結果を保険会社が明確にしていますので、不明確な有配当・5年利差配当に比べ公正な気がします」というコメントは、上記の考察から考えて、一方的な感想の押しつけになってはいないでしょうか(であれば、「私は外資系生保が好きなので」とか、きちんとコメントすべきでしょう)。
というのも、「運用結果を保険会社が明確にしています」というのも、年に1回過去の積立利率をお知らせするということが「明確」の根拠のようなのですが、利差配当も決算書で「配当の状況」を公開していますから、明確でないということではないでしょう(明確であるかないかが、主観で判断されている訳です)。
そのうえ、「公正」という表現で積立利率変動型を持ち上げていますが、この表現もあくまで主観的な表現で、しかも利差配当についてのコメントは「公正」ではない、という落ちまでついているようです(これって、もしかしたら、新しい誉め殺しの一種ですか?)。


<35歳・男性、終身保険1000万円、60歳払い済み>

(代表的な
生保の例)
積立利率変動型
終身保険
5年ごと利差配当付
終身保険
5年ごと利差配当付
低解約返戻金型終身保険
(保険料の払込が終わる前に解約すると解約返戻金は、通常の終身保険の70%の水準となる条件が付いている)

予定利率

2.00%

1.75%

1.75%

資産の運用実績が2.0%を超えると、その運用実績に基づいて積立金が増加する。
また、その積立金の増加に応じて増加保険金額が発生する

責任準備金等の運用益が、1.75%を超えて運用された場合、5年ごとに配当が支払われる(5年間のプラスとマイナスが差し引きされるが、マイナスになることはない)

責任準備金等の運用益が、1.75%を超えて運用された場合、5年ごとに配当が支払われる(5年間のプラスとマイナスが差し引きされるが、マイナスになることはない)

月払い保険料

23,060円

25,000円

21,870円

保険料の累計額

6,918,000円

7,500,000円

6,561,000円

解約返戻金(払込終了年齢時)

7,497,323円

7,317,000円

7,324,000円

解約返戻率
(解約返戻金/保険料の累計額)

108.37%

97.5%

111.63%

年利回り

0.335%

▲0.100%

0.465%


で、実際に、いうほど積立利率変動型終身保険が、有利な商品なのかどうか、3つの代表的な商品で比較してみました(最初にも触れましたが、私は積立利率変動型と、利差配当に大きな差はないと考えており、商品そのものや取扱生保が重要だと考えています。そこでもう一つの利差配当の商品である低解約返戻金型を加えて比較してみました)。
で、上記の比較から何がわかるでしょうか?
まずは、予定利率が高いからといって、保険料が必ず安いわけではないということです。
そして、同じく、解約返戻率が高くなるわけでもありません(解約返戻金が多くても、保険料の累計額も多くなっては意味ありませんから、解約返戻金の額だけ比較しても意味ありません)。

そのうえで、確定している内容で比較すれば、解約返戻率が一番高い(保険料の運用効率が高い)のは、低解約返戻金型終身保険ということになります(この条件の場合)。
ということは、積立利率変動型終身保険(以下、積立利率変動型)と、5年ごと利差配当付低解約返戻金型終身保険(以下、低解約返戻金型)を比較した場合、積立利率変動型の解約返戻率を低解約返戻金型の解約返戻率と同じにするためには、積立利率変動型の方が解約返戻金で183,677円不足ということが試算できます(保険料の累計額の差も含めた実質の差額)。
したがって、積立利率変動型は、スタートラインの段階ですでに、積立金を183,677円増加させないと低解約返戻金型には追いつけないということがはっきりしています(でも、予定利率は低解約返戻金型の方が低いのですから、理屈から言えば低解約返戻金型の方に先に配当がついてしまい、積立利率変動型はなかなか追いつけなくなってしまうと考えられますが)。

逆に、低解約返戻金型の保険料を、積立利率変動型と同じ保険料にした場合は、どうなるでしょう。
・保険金額    1050万円
・月払い保険料  22,963円
・保険料の累計額 6,888,900円
・解約返戻金   7,690,200円
・解約返戻率   111.63%
 (※10万円単位の設計となるため、ぴったりと保険料を合わせられないとのこと)

そうすると、死亡保険金額で50万円、解約返戻金で195,877円(ただし、保険料の累計額が同一ではなく、低解約返戻金型の負担の方が29,100円軽いので、それを加味すると224,977円の差になります:実質の差)、積立利率変動型の不足となっていることが分かります。
つまり、利差配当でも、低解約返戻金型であれば、積立利率変動型よりも確定している数字で、有利に設計できる場合があるということが分かります。

実際問題として、183,677円という差額は、積立利率変動型の保険料のほぼ8月分に相当しますし、183,677円の積立金の増加額を60歳までに得るためには、年利回りで最低保証予定利率に0.106%のプラス(つまり、2.106%)で運用しなければいけないということになります(これでようやく同じにスタートラインに着けるということです)。
それも、繰り返しになりますが、積立利率変動型が予定利率を超えて運用できているということは、低解約返戻金型の方も利差配当が付く市場金利環境ということです(利率変動も利差配当も、それ以上の機能は求められていません)し、さらに予定利率は低解約返戻金型の方が低い(1.75%)ということを考えますと、積立利率変動型よりも低解約返戻金型の方が先に配当が付いてしまうということも考えられます(予定利率が高いというのも、この場合はメリットにつながらない。堂々巡りです)。

したがって、以上の結論として、積立利率変動型が利差配当の商品以上に優れていると誤解させるかのような一方的な表現は、私としては根拠がないと考えます。
ただし、低解約返戻金型が良いと言いたいために比較したわけではありませんから、お間違いなく。
どちらか一方が優れているのではない、ということをご理解いただければと思います。


<低解約返戻金型終身保険についてのコメントに対する疑問>

払込期間終了時まで、通常の5年利差配当終身保険の7割の解約返戻金になる。途中で解約する可能性があれば避けた方が良い。続ける自信があれば、保険料が安く加入できる。(5年利差配当型)ある程度の解約を見越した商品(加入者が全員継続したら、この商品では恐ろしく赤字になりますよね


最後に、低解約返戻金型終身保険(この商品は、主に損保生保で取り扱っています)についてのコメントについても。
「途中で解約する可能性があれば避けた方が良い」というのは、全くその通りです。
だからこそ、加入時に保険料の設定を間違ってはいけません。
いくら役に立つ商品に見えても、継続して払込が終わるまで払い続けられなければ、この商品のメリットは享受できません。
したがって、セールスに乗せられて、無理な支払額にしないこと。
「過ぎたるは、及ばざるがごとし」です。

でも、「加入者が全員継続したら、この商品では恐ろしく赤字になりますよね」というコメントはいかがなものでしょうか。
低解約返戻金型終身保険は、保険料払込中に解約することに対してペナルティを課すことによって、安定した保険料収入の確保と、安定した運用を図った商品ですから、保険料払込中の解約率を保険料の設定の際に織り込んでいるはずです。
でこれは、予定利率や、死亡率、事業費率といった、そもそも保険料設定の基礎になる予定数値と同じレベルで設定するわけですから、「加入者が全員継続したら」という想定自体がナンセンスです。
そういった想定なら、「日本人が全員60歳前に死亡するようになったら、生保は全部つぶれますよね」というのも有りとなってしまいます。
また、その加入の継続についてのリスクは、その商品を取り扱っている生保の信用力や財務力、資産運用の方針(ALM:資産負債総合管理)が、担保となるでしょう。
だからこそ、商品の選択とともに生保の選択も必要ということになるでしょう。
ちなみに、低解約返戻金型終身保険を取り扱っている最大手生保の平成21年度の決算で見ると、低解約返戻金型終身保険のみの数字ではありません(つまり、それ以外の保有契約も込みの数字です)が、解約失効率は7.3%(個人保険)ということですから、「低解約返戻金型終身保険の加入者全員が継続できているわけではない」ということが予想できます。

これ以上の具体的な内容の話は、直接コンサルティングにお出でいただいたときにでも。





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