保険商品の新聞広告等における表示について
公正取引委員会(平成15年5月9日)
はじめに保険商品の募集については,営業社員や保険募集人による営業活動のほか,TV,インターネット,チラシ,パンフレット等様々な媒体を用いた広告表示が行われており,最近では,インターネットを通じた販売や通信販売の形態を用いる保険会社等により,新聞等での広告表示が積極的に行われている。
他方,保険商品の広告については,国民生活センターや消費生活センターに一般消費者の苦情・相談等が寄せられているほか,公正取引委員会にも,一般消費者等から,新聞の全面広告などにおいて保険商品の内容の優良性や取引条件の有利性を強調した表示をしながら,消費者にとって重要な事項が表示されていない又は著しく小さな文字で表示されている等の指摘が寄せられている。
そこで,今般,当委員会では,景品表示法違反被疑事件としてではなく,消費者に対する適正な情報提供の観点から,保険商品の新聞広告等の表示について調査を行った。
○ 調査対象:医療保険等の保険商品に関する新聞広告及びパンフレット
○ 調査期間:平成14 年12 月〜平成15 年3月
○ 調査方法:新聞広告及びパンフレットの収集,関係事業者(7社)及び事業者団体からのヒアリング
第1 保険商品の販売と広告表示
1 保険商品の広告規制
保険契約の締結又は保険募集に際しては,契約条項のうち重要事項を告げない行為等が禁止されており(保険業法第300 条第1項),保険会社等には,重要事項説明義務が課されている(金融商品の販売等に関する法律第3条)。
なお,保険商品の広告表示については,認可制等の具体的な広告規制は行われておらず,保険業法等に基づく重要事項の説明責任の下で,個々の保険会社において自主的な対応が行われている(注1)。
(注1)保険業法施行規則第234 条第4 号において,「保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して,保険契約等に関する事項であってその判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき,誤解させるおそれのあることを告げ又は表示する行為」を禁じている。
2 保険商品の新聞広告表示と消費者の認識
(1) 保険募集人や営業社員による対面販売の場合には,消費者が保険契約を行う際に,あらかじめ重要事項の説明が行われることとなる一方,特約が比較的少ない商品やパッケージ商品については,販売方法として,インターネットを通じた販売や通信販売が行われることがあり,こうした場合,重要事項に関する被保険者の同意は,告知書への自署や申込書の同意欄への自署押印によって実施されることが多い。
(2) 保険商品の勧誘に当たり,新聞広告が募集ツールの1つとして使用されることがある。こうした広告宣伝活動は,新規参入者にとって重要な競争手段であり,保険商品の分野における競争の促進につながっている側面がある。
他方,消費者の保険商品選択に当たってのファーストコンタクトの一つとして重要である新聞広告において,全面広告等を用い,保険商品の訴求ポイントを大きく記載しながら,保険金受取の制限条件等消費者にとって重要な事項が記載されていなかったり,又は著しく小さな文字で記載されているようなケースがみられた。
こうした保険商品の広告表示に関する消費者の意見等としては,次のようなものが見受けられた。
○ 責任開始時期(注2)など,保険業界では常識であっても,消費者にとって常識とはいえないことがある。消費者の認識を踏まえた表示を行うべきである。
(注2)責任開始時期とは,保険会社が被保険者に対して責任の負担を開始する日のこと。
○ 加入時に告知必要なしなどと,有利な内容を大きく表示してあるが,下の方に読めないような小さな文字で「加入制限がある」との表示,又は「詳しくはパンフレットを見るように」との表示があるが,消費者は小さな文字の制約条件表示などをよく読まず,内容を理解しないまま加入してしまうおそれがある。
○ 「無条件で加入できる」と大きく表示しているが,実際には保障に関して制限があることが分かりにくい。パンフレットの記載も小さく不親切である。
○ 月3,000 円で加入できるとあったが,年齢によって異なることが小さく書かれてあり,目に入らなかった。小さい文字では高齢者には読みにくい。
(3) インターネットを通じた販売や通信販売等においては,契約申込みの段階で受け取る重要事項説明書等に保険商品の保障内容の制限条件等が記載されており,また,保険募集人による説明が受けられる体制が整えられているとしても,新聞広告を見て商品選択を行った消費者は,重要事項の説明を受けることなく,そうした保険商品の保障内容の制限条件等について気付かないまま契約に至るおそれがあると考えられる。
第2 保障内容に係る制限条件の表示について
保険商品の保障内容に一定の制限条件があるにもかかわらず,新聞広告表示において,当該制限条件が表示されていない,又は著しく小さな文字で表示されている,保障内容を強調した表示から離れたところに小さく表示されているなどといったケースがみられた。
また,入院保険等の新聞広告において,保険への加入条件について,特段の条件を課すこともなく,また特段の審査を要することもなく容易に加入できる旨を強調している表示がみられた。当該保険については,実際にも加入条件を設けない,又は医師の審査を要しないものであったが,保障内容については,一定の制限条件等が設けられているにもかかわらず,明りょうに表示されていないものであった。
具体的な表示を内容別に整理すると,以下のとおり。
1 保険商品における責任開始時期に係る制限条件
(1) がん保険の責任開始時期
保険の保障がいつから開始されるかは消費者にとって重要な事項であり,これが明りょうに表示されていない場合,消費者は,初回保険料払込日から保障が開始されるものと認識すると考えられるところ,がん保険においては,その商品の特徴から初回保険料払込日以後90 日間を保障の免責期間とし,責任開始時期が91 日目からの商品が多くみられる。
しかしながら,新聞広告において,がん保険の高額な保障,幅広い保障範囲等の商品の特徴を強調して表示しているものの,責任開始時期が表示されていない,又は新聞広告の下欄に著しく小さな文字で表示されているものがあった。
当事会社からは,責任開始時期については,パンフレット及び重要事項説明書等に記載しているので,新聞広告では表示しなかったなどといった説明があった。パンフレットにおいては,責任開始時期が明りょうに表示されているものも一部にみられるが,裏面に小さな文字で一括して記載されているのみであるなど,消費者に対して明りょうに表示されているとはいえないケースもある。
新聞広告 パンフレット(例) 新聞広告において,がん保険の保障内容の充実等を強調して表示しているが,
・がん保険の責任開始時期の表示がない。
(P社,Q社,R社,S社)
・がん保険の責任開始時期について,「ガンに対する保障は,保険始期日よりその日を含めて91 日目から開始します。90 日以前にガンと診断された場合には保険契約は無効となります。」等と著しく小さく表示している。
(T社,U社,V社)「会社は第1 回保険料充当金を受け取ったとき,または被保険者の告知を受け取ったときのいずれか遅いときから,その日を含めて90 日を経過した日の翌日を責任開始期とし,その日から保険契約上の責任を負います」とパンフレット裏面に小さく記載しているケースもある。
(2) 高齢者向け入院保険の責任開始時期
病気及びケガの入院を保障する高齢者向け入院保険の新聞広告において,「誰でもカンタンに入れる」,「面倒な医師の診査などは不要。あきらめていた方でも今すぐはいれます。」,「ほとんどの病気やケガでの入院を保障。1日5,000 円の入院給付金が受け取れます。」などと,加入制限なく誰でも加入できる保険である旨強調して表示しているが,その保障内容について,実際には次のような条件が設定されているところ,新聞広告においてその旨が表示されていないものがあった(P社)。
・ 病気の保障については,責任開始時期が初回保険料払込後91 日目以降との制限がある。
・ 病気の保障については,責任開始時期以前に発病した病気との因果関係が認められた病気による入院の場合(契約後の入院・手術等の保険金請求時に添付される医師の診断書により判断される。)には,上記・に関わらず,責任開始時期以後2年間は保障しないとの制限がある。
新聞広告 パンフレット ・「誰でもカンタンにはいれる」
・「面倒な医師の診査などは不要。あきらめていた方でも今すぐはいれます。」
・「ほとんどの病気やケガでの入院を保障。1日5,000 円の入院給付金が受け取れます。」と記載。・「疾病給付金のお支払い対象とならない場合」
・「この保険は告知書の提出が不要で,簡便な手続きでご加入いただけますが,以下のように疾病給付責任開始日(*1)前に発病した病気…の場合には,入院・手術・通院の各給付金が支払われませんのでご注意ください。」
・「■ご契約以前に発病していたり治療を受けられていた病気。」
・「■ご契約前から発病しており,疾病給付責任開始日以後も引き続き治療している病気。」
・「■ご契約後であっても,疾病給付責任開始日前に発病した病気。」
「*1 疾病給付責任開始日病気の保障については,会社が第1回保険料を受け取った日から90 日間は不てん補(保障の対象とならない)期間となっており,91 日目から保障を開始します。」
・「疾病給付責任開始日から2年を経過した日の翌日以後に開始した入院・手術については,その入院・手術の原因となった病気が疾病給付責任開始日前に発病した病気であっても,疾病給付責任開始日から2年以内にその病気またはその病気と医学上重要な関係のある病気で,入院・手術をしていない場合には,疾病給付責任開始日以後に発病したものとみなします。」と記載。
(3) 高齢者向け終身保険(死亡保障)の責任開始時期
死亡保障を内容とする高齢者向けの終身保険の新聞広告において,「誰でもはいれる終身保険」,「病気,災害(不慮の事故等)による死亡を一生涯保障。」,「あきらめていた方でも今すぐはいれます。」などと,加入制限なく誰でも加入できる保険である旨強調して表示しているが,その保障内容について,小さな文字で,「契約してから2年以内に病気で死亡された場合の保険金額は主契約の既払込保険料相当額となります」と表示されているものがあった(P社)。
これについては,実際には,契約後2年以内の病気死亡については免責対象のため,保険金は支払われず,既払込保険料のうち病気による死亡保障部分(払込保険料の90%程度)が払い戻されるものであって,責任開始時期が2年後であることが明りょうに表示されているとはいえないものとなっている。
新聞広告 パンフレット 強調表示 制限条件表示 ・「誰でもはいれる終身保険」
・「病気,災害(不慮の事故等)による死亡を一生涯保障。」
・「あきらめていた方でも今すぐはいれます。」
と記載。小さな文字で「契約してから2年以内に病気で死亡された場合の保険金額は主契約の既払込保険料相当額となります」と記載。
「契約日から起算して2年以内に病気で死亡された場合,死亡保険金はそれまでにお支払いになられた主契約の既払込保険料相当額となります。」と記載。
2 保険商品の保障内容に係るその他の制限条件
(1) がん入院給付金支払額の減額
がん保険の新聞広告において,入院給付金が,「1泊2日から無制限」,「ガンで入院1日につき10,000 円」と,入院日数に関わりなく,入院給付金が1日10,000 円支払われる旨強調して表示していながら,実際には,61 日目からは入院給付金は10,000 円ではなく,5,000 円となる旨を,小さな文字で記載しているものがあった(Q社)。
新聞広告 パンフレット 強調表示 制限条件表示 「1泊2日から無制限」,「ガンで入院1日につき10,000 円」と記載。
強調表示と同一視野ではあるものの,小さな文字で「(61 日目以降:1日につきガン入院保険金5,000 円のみとなります。)」と記載。
「ガンで入院の場合,60 日間倍額,しかも日数無制限で保障」と強調し,同一視野に,比較的大きな文字で「60 日間は10,000 円を,61 日以降は5,000 円を日数無制限にお支払いします。」と記載。
(2) 急性心筋梗塞及び脳卒中による診断給付金支払の制限条件
三大疾病保険の新聞広告において,診断給付金の支払に関し,「3大成人病(ガン・脳卒中・急性心筋こうそく)で所定の状態になられたら,一括150 万円が受け取れます。」と表示しながら,「所定の状態」の具体的内容について記載のないものがあった(P社)。
これについては,実際には,診断給付金の支払を受けられるのは,急性心筋梗塞については,初めて医師の診療を受けた日から60 日以上労働の制限を必要とする状態が継続すると医師によって診断された場合のみ,脳卒中については,初めて医師の診療を受けた日から60 日以上言語障害等の他覚的な神経学的後遺症が継続すると医師によって診断された場合のみに制限されているものである。
パンフレットにおいては,診断給付金の支払を受けるための当該制限条件の記載はあるものの,裏面に小さな文字で一括して記載されており,消費者に対して明りょうに表示されているとはいえないものとなっている。
新聞広告 パンフレット 【強調表示】
「3大成人病(ガン・脳卒中・急性心筋こうそく)で所定の状態になられたら,一括150万円が受け取れます。」と記載しているが,「所定の状態」の具体的内容についての記載がない。【制限条件】
診断給付金の支払を受けるための条件として,パンフレット裏面に小さな文字で以下の記載がある。
・「この特約の責任開始時以後の疾病を原因として虚血性心疾患のうち急性心筋梗塞を発病し,初めて医師の診療を受けた日から60 日以上,労働の制限を必要とする状態が継続したと医師によって診断されたとき」
・「この特約の責任開始時以後の疾病を原因として,脳血管疾患のうち脳内出血くも膜下出血・脳梗塞を発病し,初めて医師の診療を受けた日から60 日以上,言語障害等の他覚的な神経学的後遺症が継続したと医師によって診断されたとき」
(3) 急性心筋梗塞及び脳卒中の診断以後の保険料免除の制限条件
三大疾病保険の新聞広告において,特約を付加することにより,「『三大疾病』と診断されたら,以後の保険料は免除します。」等と強調して表示しながら,診断以後の保険料の免除を受けるための,当該診断内容に関する制限条件について記載していないものがあった(R社)。
これについては,実際には,急性心筋梗塞については,初めて医師の診察を受けてから60 日以上労働の制限を必要とする状態が継続すると医師によって診断された場合のみ,また,脳卒中については,初めて医師の診察を受けてから60日以上言語障害等の他覚的な神経学的後遺症が継続すると医師によって診断された場合にのみ,診断以後の保険料が免除されるものである。
パンフレットにおいては,免除を受けるための当該制限条件の記載はあるものの,最終ページに小さな文字で一括して記載されており,消費者に対して明りょうに表示されているとはいえないものとなっている。
新聞広告 パンフレット 【強調表示】
「急性心筋梗塞・脳卒中と診断された場合…以後の保険料支払免除」と記載しているが,診断以後の保険料支払免除を受けるための診断内容に関する条件の記載がない。【制限条件】
保険料支払免除を受けるための条件として,パンフレット裏面に小さな文字で以下の記載がある。
・疾病を原因として急性心筋梗塞を発病し,初めて医師の診療を受けた日から60 日以上,労働の制限を必要とする状態が継続したと医師によって診断された場合
・疾病を原因として脳卒中を発病し,初めて医師の診療を受けた日から60 日以上,言語障害等の他覚的な神経学的後遺症が継続したと医師によって診断された場合
(4) 病気・けがによる入院等の保障の制限条件
医療保険の新聞広告において,「病気・ケガの生涯保障」,「一生涯続く保障」等と記載することにより,病気又はけがで入院した場合,入院給付金又は手術給付金の支払保障が一生涯にわたり受けられるかのように強調して表示しながら,実際には,けがの保障については90 歳までであるところ,当該制限条件を,小さな文字で記載しているものがあった(T社)。
新聞広告 パンフレット 【強調表示】
「病気・ケガの生涯保障」,「一生涯続く保障」と記載。
【制限条件】
「ケガの保障は90 歳までとなります。」と小さな文字で記載。【強調表示】
「一生涯保障」と記載。
【制限条件】
強調表示と同一視野に,「新災害特約は90 歳まで」と記載。
第3 保険料等の表示について
保険商品の新聞広告における保険料等の表示については,何らかの用語等を表示するなどして,その安さや有利性を強調して表示しているが,当該保険料等の適用年齢の条件表示が著しく小さく表示されているなどのケースがみられた。新聞広告における保険料の表示については,何らかの用語等により安さを強調しているものが7社あり,そのうち特定の年齢層の保険料を強調表示しているものが4社あった。
このうち,適切な表示となっていないと考えられるものとして,以下のような表示があった。
1 低年齢層の保険料の強調表示
医療保険の新聞広告において,例えば,「月額2,190 円で,ガンも!病気も!ケガも!事故も!一生涯をここまで保障!」等と保険料の安さを強調して表示し,その適用年齢を「満20 歳女性の場合。年齢などの条件によって異なります。」などと,小さな文字で表示しているものがあった(V社)。
保険商品の保険料の用例については,各社の当該商品の実際の主たる契約者層である30〜40 代の保険料を用例としているものがある一方で,保険加入を促進したい若年層の保険料を用例としているため,実際の主たる契約者層とはかい離がみられるものもあった。
なお,パンフレットでは,各社とも,保険料の表示は,年齢階層ごとのものを一覧にして表示している。
新聞広告 パンフレット 実際 強調表示 制限条件表示 「月額2,190円で,ガンも!病気も! ケガも!事故も!一生涯をここまで保障!」,「さらに+60 円で老後もラクラク!」と記載。
小さな文字で「満20 歳女性の場合。年齢などの条件によって異なります。」と記載。
年齢別・性別・プラン別の保険料を一覧にして表示しており,特定年齢層の保険料を強調した表示はない。
女性 男性
20歳 2,190円 2,340円
30歳 2,740円 3,040円
40歳 3,740円 4,390円
50歳 5,190円 6,340円
60歳 7,040円 9,140円
2 特定年齢層のみの払込保険料還付の表示
入院保険の新聞広告において,「無事故なら10 年後に20 万円のボーナス。払込保険料の約40%がキャッシュバックされます。」,「35 歳男性本人型Aプランに御契約の場合,10 年間の保険料払込総額と無事故給付金より計算。」と記載しているものがあった(P社)。
これについて,実際には,契約年齢によりキャッシュバック比率は異なり,年齢が上がれば比率は下がるものであることが,明りょうに表示されていないものとなっている。
新聞広告 パンフレット 実際 強調表示 制限条件表示 「無事故なら10 年後に20 万円のボーナス。払込保険料の約40%がキャッシュバックされます。」と記載。
「35 歳男性本人型Aプランに御契約の場合,10 年間の保険料払込総額と無事故給付金より計算。」と記載。
「無事故なら,満了時にうれしいボーナス,20 万円の無事故給付金が受け取れます」と記載。
10 年間の総払込保険料に占めるキャッシュバック金額(20 万円の定額)の割合を表示したもの。
(例) キャッシュバック率
20歳男性 44.8%
30歳男性 43.1%
40歳男性 37.5%
50歳男性 28.2%
60歳男性 17.1%
第4 消費者に対する適正表示の確保のために
1 景品表示法上の考え方
(1) 本件調査を通じ,保険商品の広告表示に関して,景品表示法の観点から,以下の2点が指摘される。
・ 保険商品の保障内容に一定の制限条件があるにもかかわらず,当該条件が表示されていない場合,又は著しく小さな文字で表示されている,保障内容を強調した表示から離れたところに小さく表示されている等により当該条件表示を一般消費者が見落とすような表示方法となっている場合には,当該保険商品の内容が,実際のものよりも著しく優良であるとの誤認を招くおそれがある。
・ 保険料の表示に関して,主たる契約者層とは考えられない若年層の保険料を用例とし,その適用年齢等の条件表示を著しく小さく表示しているため,一般消費者が見落とすような表示となっている場合には,他の年齢層の消費者についても当該保険料が適用され,実際のものよりも著しく安いとの誤認を招くおそれがある。
(2) 新聞広告において保険商品の内容の優良性等を強調した表示をしながら,保障内容の制限条件等が記載されていなかったり,又は著しく小さな文字で記載されているようなケースがみられた。
保険商品については,特に,販売方法としてインターネットを通じた販売や通信販売を用いる場合,パンフレットや重要事項説明書において保障内容の制限条件等について記載されているとしても,そうした事項について明りょうな記載のない新聞広告によって誘引された消費者は,当該制限条件等について気付かないまま契約締結に至るおそれがある。また,本件調査においては,新聞広告のみならず,パンフレットについても,消費者に対して保障内容の制限条件等を明りょうに表示しているとはいえないものもみられた。さらに,保険料等について,特定年齢層の保険料の用例のみを強調して表示するなどして,その安さや有利性を強調しているケースがみられた。
したがって,保険商品の広告表示の適正化を図る観点から,
・ 保険商品の保障内容に一定の制限条件がある場合には,消費者が誤認することのないよう,保障内容の優良性等の表示の近くに,当該制限条件等を明りょうに表示する必要がある。
・ 保険料等の取引条件を表示する場合において,特定の年齢層に係る取引条件を強調して表示する場合には,当該取引条件が他の年齢層の顧客にも該当するものであるとの消費者の誤認を招くことのないよう,特定の年齢層に係るものであることや,年齢によって異なることを明りょうに表示する必要がある。
2 当委員会の対応
(1) 保険商品の新聞広告等を対象に行った本件調査は,景品表示法違反被疑事件として行ったものではなく,消費者に対する適正な情報提供の観点から行ったものであるが,上記のとおり保険商品の保障内容に関する制限条件等が表示されていない,又は著しく小さな文字で表示されている等のケースがみられたことから,当委員会は,当該広告表示を行っていた各保険会社に対して,消費者の適切な商品選択に資するよう,表示の適正化を図るための指摘を行ったところであり,その結果,広告表示の具体的な見直しの検討が進められている。
(2) また,本件調査とは別に,日本生命保険相互会社のがん保険のがん入院給付金に関する表示について景品表示法違反被疑事件として調査を行ったところ,実際のものよりも著しく優良であると誤認される表示に該当すると認められたことから,景品表示法の規定に基づき,排除命令を行った。
(3) 当委員会としては,新聞広告をはじめとする様々な媒体における保険商品の表示について,引き続き,フォローアップを行うとともに,景品表示法の規定に違反する事実が認められれば,厳正に対処することとしている。
さらに,業界全体の表示の適正化が図られることが重要であることから,生命保険協会に対し,会員会社に対して適正表示に向けた取組の指導を行うとともに,表示に関する公正競争規約の策定を含めた表示の適正化に向けた取組を行うよう要望した。
<問い合わせ先>
公正取引委員会 事務総局 経済取引局 取引部 消費者取引課
電話 03−3581−3375(直通)
ホームページ http://www.jftc.go.jp