週刊ダイヤモンド「保険選びのツボ」

(2006年07月29日号)


「保険選びのツボ」というタイトルの割りには、もはやほとんど販売されていない“三利源”商品の仕組みを解説し、仰々しく“秘中の秘”と自賛するセンスは、いかがなものでしょう。
そもそも、ようやく今になって生保が三利源を公表したのは、株高のおかげで、運用の逆ざや(利差損)を死差(危険差益)と費差(費差益)で穴埋めをしなくても済むようになったからであって、消費者側の視点に立つなら、これまでの丼勘定的な配当の使い方(運用の逆ざやを死差と費差で穴埋めしてきたこと)こそ記事にすべきだったのではないでしょうか。

それはさておき、「応用編 専門家がズバリ指摘 保険商品選びのツボ」(40〜45ページ)の文中に突っ込みを入れてみましょう。

●入院1日あたりの保障額は1万円あれば十分
次の通り、解説の内容自体は妥当です。
  • 入院で一番大きい出費は差額ベッドである
  • 公的な健康保険制度には、「高額療養費」があり、一定額以上の医療費については還付される

    ただし、“入院しているあいだ働けないことによる収入減”を医療保険の入院給付で賄おうとする発想はどうでしょう。

  • 家で寝込んでいる時には入院給付の対象にならない
  • サラリーマンの場合、有給休暇を使い切った後でも、就労が出来ない場合は「傷病手当金」(標準報酬月額の6割)の支給を受けられる

    こと等を考慮すると、サラリーマンの場合、日額5000円の医療保険でも十分と考えられます(サラリーマンの場合、加入している健康保険組合によっては、高額療養費に付加給付が設定されており、自己負担額はさらに軽減されます)。
    また、自営業者の場合でも、日額5000円の医療保険に加入して、日額1万円の医療保険との差額の保険料を貯金した方が、私は役に立つと思います。

●入院給付限度日数は60日で十分

根拠は、厚生労働省の「患者調査」ということですが、それならば、もう一歩踏み込んで資料を活用してほしかったと思います。
なぜかというと、同じ調査には、65歳以上・70歳以上・75歳以上の方の傷病別の平均入院日数も掲載されているからです(ちなみに、65歳以上の全体の平均在院に数は“53.0日”、70歳以上の全体の平均在院日数は“55.2日”、75歳以上の全体の平均在院日数は“59.8日”です)。
それによれば、60日を超える傷病が出てきます。
医療保険が役に立つようになるのは、入院のリスクが急上昇する65歳以降ですから、その65歳以降に注目して、プランを検討すべきではないでしょうか。

場合によっては、「1入院の上限」について、きちんと理解していないため、60日もあれば十分と勘違いしているケースも目に付きますので、注意が必要です(60日型の医療保険の場合、同じ傷病で入院した場合、60日までは入院給付がありますが、それ以上に入院しても給付は受けられません。また、同じ病気で再入院・転院した場合でも、退院と再入院の間隔が180日以上ないと、給付は受けられません)。
したがって、本当に老後のことを考えるなら、60日で十分とは言えないと考えられます。

●平均で月6万円弱生活費が不足

こちらの根拠は、生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」らしいのですが、この調査の落とし穴は、実はお年寄りの実態調査ではないという点なのです。
調査対象が18〜69歳の方で、質問自体も、「老後を夫婦2人で暮らしていくうえで〜(略)〜いくらぐらい必要だとお考えですか(万円単位)」、「経済的にゆとりのある老後生活を送るためには〜(略)〜いくらぐらい必要だとお考えですか(万円単位)」といった内容となっており、あくまでも「あったらいいな」「このくらいは欲しいな」といった、非常に現実味の乏しい回答であったことが予想されるのです。
ところが、総務庁の「
家計調査」によれば、世帯主が65歳以上の世帯あたりの平均支出は“219,187円”という数値があり、これならば、老齢厚生年金の平均支給額とほぼ同額となり、徒に長生きのリスクを怖がる必要はないと言えるのです。
とすれば、「平均で月6万円弱生活費不足」という結果は、単に老後の生活にはお金がかかるから大変、と不安を煽っているようにしか見えないのですが、いかがでしょう。

生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」の結果については、生命保険の様々な保障が必要な理由付けとして活用されることが多いのですが(例えば、1日あたりの入院費の平均は15,000円なんてのも、これが出所です)、このように、実は統計とした確からしさのない、単なるアンケートであるケースが多いので、鵜呑みしないよう注意しましょう。

まあ、いつものごとく、専門家っていったい何なんでしょう、考えさせられる内容でした。

後段の「生保信頼度ランキング」は、なんと今年の2月18日号のランキングの再掲載ということなので、割愛します。
一点突っ込みたいのは、保険加入後の顧客満足度の指標は本当に「解約失効率」なのかということです。
解約や失効はしなくても、例えば、払済や延長定期にした場合どうなのか、なんてことも疑問です。
あるいは、解約失効率は保有契約高ベースで算出していますが、件数ベースならどうなのか。
片手間に、個人保険のみ(個人年金を含まず)の解約失効率もどきを算出してみましたので、ご覧ください。
もっとも、あくまでも“もどき”でしかないのは、算出方法が、

 (16年度保有件数+17年度新契約高ー17年度保有件数)÷16年度保有件数×100

であるため、期間中に死亡などによる契約の消滅も含んだ数値となっているからです。
とはいえ、死亡が特定の保険会社に集中しているとは考えにくいことからすれば、おおよその傾向は掴めるのではないでしょうか(変額保険を中心に販売している生保は除外してあります)。

一つ言えるとしたら、いつものことですが、項目建て次第でランキングの順位は大きく変わるということでしょうか。
で、解約失効率の場合でも、保有契約高ベースだけでなく、件数ベースからも見てみることが大切と言うことになるでしょう(それにしても、契約高ベースで上位にきていた大手生保が件数ベースで、軒並み順位を下げているのはなぜでしょう)。
そのうえで、両方の解約失効率の順位が上位である生保は、解約失効が少ないといえるのではないでしょうか(払済や延長定期の取扱いについて、不明確であるにしても)。
それと、ここに名前の出ていない生保のうち、件数ベースの解約失効率が20%(あくまで“もどき”ですが)を超える生保が2社もあったことには驚いた次第です(ただし、決算などを見れば、その2社の結果がそうであっても、不思議でも何でもないと思うでしょうが)。


 <件数ベースの解約失効率“もどき”ランキング>

順位
生命保険会社名
件数ベースの
解約失効率もどき
保有契約高ベースの
解約失効率
(週刊エコノミスト2006.06.27号)

アフラック

4.67%
7.93%
14

プルデンシャル

6.41%
4.98%

ソニー

6.42%
5.84%

東京海上日動あんしん

6.47%
6.49%

アクサ

7.36%
6.09%

三井住友きらめき

8.57%
10.57%
20

損保ジャパンひまわり

9.06%
10.37%
19

AIGエジソン

10.14%
8.72%
15

三井

10.19%
7.04%
10

第一

10.64%
7.49%
11
11

ジブラルタ

10.91%
6.98%
12

アリコ

11.30%
7.46%
10
13

日本

11.78%
7.06%
14

大同

12.07%
7.66%
13
15

富国

13.29%
5.79%
16

住友

13.63%
7.63%
12
17

ING

13.99%
14.51%
23
18

AIGスター

14.20%
8.83%
16
19

明治安田

14.40%
9.39%
17
20

朝日

14.63%
6.82%
21

太陽

15.61%
9.68%
18
22

T&Dフィナンシャル

16.52%
14.37%
22
23

マニュライフ

18.09%
12.37%
21

 



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