蒼き騎士の伝説 第一巻                  
 
  序章 ファースト・コンタクト  
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 ユーリ・ファン、テオドール・アンダーソン、ミク・ヴェーベルン。
 三人の乗組員は、次々と目を覚ました。
 その間に、オート操縦のエターナル号は最後のワープを終え、ついに船内のスクリーンが惑星カルタスを正面に捉えた。
「これが、カルタス……」
 ユーリはその髪と同じ色の、黒曜石のような瞳を輝かせた。
「本当に、地球みたいだ」
「おいおい、もうホームシックにかかってるんじゃないだろうな」
 まだ少年の面影を残すユーリの横顔を見ながら、からかうようにテッド(テオドール)が言った。
「そんなこと」
 きゅっと口角の上がった口元を少し不服そうに尖らせながら、ユーリは彼より一回り、年齢も体格も上の男を見た。
 少しウエーブがかったダークブラウンの長い髪を無造作に束ね、口の回りに無精鬚をたくわえた姿は、野性的でありながらどこか品がある。ユーリは常々その姿を、子供の頃に読んだ冒険小説に出てくる『中世の騎士』に重ねていた。もっともテッドに剣技の心得はなく、むしろ銃の扱いに優れていたのだが。何故かユーリの中では、『夕日のガンマン』ではなく『三銃士』なのであった。
 ユーリはここで、鮮やかな赤い髪と冴えたグリーンの瞳を持つ女性に視線を移した。ペールグリーンのジャケットとアイボリーホワイトのパンツというユニフォームが、一番似合っている。
「ミク、カルタスからの応答は?」
「まだです」
 静かな、それでいてよく通る声でミクが答えた。
「しかしこの場合、まだと言うより無理と答えた方が的確ですね」
「そりゃ、どういう意味だ?」 テッドが尋ねた。
「惑星上に高度文明の反応が全くないのです。電磁波や高エネルギー反応、そういうものが一切ありません。生命反応はありますし、かなり大きな建造物なども確認できるのですが。まあ、このレベルでは、せいぜい地球の十三、四世紀頃の文明程度と考えるべきでしょうね」
「そんな」
 ユーリは、くりっとした黒い瞳をさらに丸くした。
「じゃあ、あれほどの文明が消えたってこと?」
「さあ」
 ミクは小さく首を振った。顎の先のラインに切り揃えられた髪が揺れる。
「どういう経緯で今の状況になったのかは分かりませんが、私達が考えていたような世界がこの惑星上にないことだけは確かです。それに――ちょっと待って下さい」
 ミクの声に、急に緊張の色が走った。
「エネルギー反応? 強いエネルギー反応です。前方から……来ます!」
 その瞬間、船体が白い光に包まれ、大きく揺れた。座っていたミク以外の二人がかろうじて転倒を免れたのは、奇跡に近いことだった。
「これがカルタスの挨拶かよ」
 毒突きながらも、テッドは素早く船体の状況を調べた。
「第三、第十、シールド破損」
「どこから撃ってきてるんだ?」
 ユーリが操縦席に体を滑り込ませる。
「右舷前方、第二衛星です。惑星右方、二つある月の右の方――第二波、来ます!」
 再度、船体が強い光と衝撃に見舞われた。
「第四、第七、第八シールド破損。修復不能。もう一発しか持ちこたえられねえぞ!」
「オート操縦解除、全エンジンの出力全開」
「おいユーリ、どうする気だ」
「あの左の月の陰に入る」
「何だと?」
 叫ぶようにテッドが言った。
「カルタスと第一衛星の間を、このフルスピードで抜けるってか? バカな! どっちかの引力に引きずられて、叩きつけられるぞ!」
「第三波」
「どっちにしてもってか」
「来ます!」
 三度目の光と衝撃が、斜め横から加えられた。
「第一、第ニ、第五――ダメだ。全シールドダウン!」
「第四波――」 ミクの声が一段高くなった。
 船は右舷前方に第一衛星、左舷前方にカルタスを捉えながら、全速力で突っ込んで行く。
 凄まじい破壊力と共に、白い光が追いすがる。
 そして――。

 

 
 
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