「これからどうするか――だな。まあ、今回のことで、王が少しは後ろ盾になってくれるだろうから。いろいろと調べるのにも、都合が良くなるだろうが」
「それは、首尾良くいけばの話ですね。そう上手くいくかどうか」
澄んだグリーンの瞳に、さらに冴えた光を湛えながらミクが言った。
「アルフリート王の話によれば、城には偽の王がいるとのこと。姿、形がうり二つの、王に生き写しの男が。そしてそれは、邪悪な魔法を使うガーダの手によるものだと。その、仕業だと」
「その話に嘘はない。僕は、そう感じたけど」
少し上目遣いで、訴えるかのような表情のユーリを見て、ミクは微笑んだ。
「嘘ではない、ということであれば、ガーダとやらの存在が不気味です。実際この星に来て、私達は何度か、不可思議な現象を目の当たりにしているわけですし。いずれにせよ、城へ行って王印を振り翳したところで、すんなり事が運ぶとは考えにくいですね。アルフリート王を王位から追いやったものが、確かに存在しているのですから」
「っつーことは何か? そいつらと一戦、交えるってことか?」
「私達でなんとかできる範囲なら、それでもいいでしょう。でも、謀略者が何者にしろ、相手の力が強大であった時は」
「その時は?」
ミクの顔から微笑みが消えた。問いかけたユーリの瞳を真っ直ぐに見る。
「私達の目的は、アルフリート王を玉座に戻すこと――ではないということです」
ユーリは瞬きもせずミクを見つめた。その瞳に、複雑な光が乱反射する。
「見捨てるってこと? もし、勝ち目がないようなら、アルフリート王を」
「言葉を取り繕うつもりはありません」 ミクは淡々と答えた。
「そういうことです」
「でも」
「しかし」
ユーリとテッドは同時に声をあげ、そして同時に口を噤んだ。もちろん――というミクの声が、そこに重なったからだ。
「もちろん、王が私達と意を同じくしてくれるなら、最悪の事態には至りません。もし、理解を得ないようであれば、少々強引にでも、そのように対処することになるでしょう」
「なるほどね」 テッドは言った。
「要は、危なくなったらアルフリートをぶん殴って、そのまま引きずって逃げるってことだな」
「手段はともかく。まあ、そういうことです」
「王は、分かってくれるだろうか」
「だから、そん時はぶん殴ってだな」
急に、テッドの言葉が尻窄りとなる。扉の軋む音。あばら屋からアルフリートが出てくる。
「待たせたな」
その声に、満足げな響きがある。
「王印は?」
「ここだ」
ユーリ達の待つ入り口へと歩みながら、アルフリートは右手の甲を見せた。中指に、入った時にはなかったリングがある。
「そうか、じゃあ後は」
テッドはそこで、ミクの方を向いた。
「ブルクウェルだな」
小さく頷くミク。その右頬が、ふんわりと光った。光は徐々に強まり、ミクの右半身を照らす。
「…………?」
テッドは左に目をやった。小さな神殿の内部、あばら屋のある方向。近づくアルフリートの輪郭が、後光が差すかのように輝いている。
「なんだ? あれは」
テッドの言葉と表情を受けて、アルフリートは後ろを振り返った。まばゆい黄金の光が、視界を支配する。手を翳して見つめるその先に、壁や屋根を突き抜け、幾筋もの光の槍を無秩序に放つ、あばら屋の姿があった。
「……なっ?」
光に圧倒され、アルフリートは後退りをした。
あばら屋を貫いた光が、小さな神殿の内壁を次々と照らしていく。照らされた壁に、黄金色の染みができる。そしてその染みは、まるで呼吸でもするかのように、自らも一定のリズムで発光を始めた。天井、床と、染みは広がり重なり合い、瞬く間に神殿内が、黄金の光の海と化していく。
「……むう」
ぽっかりと、入り口だけを残した光の海に、アルフリートは平衡感覚を失った。よろめき、その場に崩れる。光はさらに内部を圧迫し、こらえきれずに外壁をも突き破る。外へ飛び出た光は、サーチライトのように天井を、円柱を、泉の水面を駆け巡る。
その時。
全ての光が、ぐにゃりと湾曲した。何本もの光の帯が、鞭のようにしなる。そして、走る。まるで生き物のように、一つの方向を目指して駆ける。