蒼き騎士の伝説 第一巻 | ||||||||||
第四章 対峙(4) | ||||||||||
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四
両足がビクンと痙攣を起す。落下するような感覚を覚えて、テッドは意識を取り戻した。目を開けようとする。しかし、瞼はぴったりと閉じたままだ。もう一度……失敗。もう一度……ダメだ。
今度は左手に意識を集中させる。ゆっくりと手を握る。握ろうとする。空しい努力の時を経て、指先が微かに動くのを感じる。成功だ。
ここで再び、目を開けることに挑戦を始める。瞼がぴくぴくと引き攣り、なおも抵抗を見せる。が、ついに右の瞼が降伏し、半分だけそろりと開く。
眩しい――。
太陽の強い光を真っ直ぐに受けて、思わずテッドは目を閉じた。顔をわずかに傾けながら思う。
どうやら、俺は生きているらしい――。
耳元で音がする。そう、ミクは思った。薄っすらと目を開ける。オレンジ色に光る瓦礫の山が、瞳に映る。時折、小石が土埃をあげながら、その表面を滑り落ちていく。その手前、顔の正面に手が見える。白く細い指。自分の手だ。地面に散らばる小さな石の破片をつかむように、その手は横たわっている。ようやく、自分がうつ伏せに倒れていることを把握する。
体を起そうと、ミクはその手に力を込めた。地面を押し、上半身を立てようと試みる。だが、ある感覚を覚えて、すぐにそれを止めた。左手上腕部に、鈍い痛みを感じる。ミクは唇を噛んだ。
みんなは、みんなは大丈夫だろうか――。
寒い――。
アルフリートは右手で左腕を抱え込んだ。同時に両膝を引き寄せる。夜の帳が下りたことを示す冷気が、その全身を包み込む。体を丸め、小さく震えながら、アルフリートは思った。
あの時、地が激しく波打った。揺れる視界の中で、ガーダの錆色の衣が滲み、瞬く間にその場から消え失せた。神殿が崩れる。天井が、上からぐにゃりと押し潰されたように落ちてくる。その時、光が溢れた。暖かく優しい、黄金の光。
私はそれを、確かに感じた――。
ユーリは目を閉じ立っていた。夜風がそっと髪を撫でる感触に促され、目を開ける。晧々と輝く月光の中、荒涼とした剥き出しの地面が見える。ユーリは一つ吐息を吐くと、天を仰いだ。銀白色の二つの月と無数の星々が、煌きながらユーリの瞳に降り落ちる。意識が、混濁する。
ユーリは目を閉じた。そして再びその目を開けた時、彼は星雲の中にいた。右も左も、前も後ろも。数えきれぬほどの小さなダイヤモンドを縫いつけた、漆黒の闇が広がっている。それは天も同じ。無論、地も……。
ユーリは目を見張った。足元の遥か下、蒼い惑星が見える。地球……? ぼんやりとそう思ったが、すぐにそれが間違いであることに気付く。その惑星の手前には二つの月。二つの――。
カルタス……。
唇が、音を発することなくそう動いた。途端、ユーリの体は落下する。二つの月を通りすぎ、雲を突き抜け、海を、森を、掠めながら飛ぶように落ちる。小高い山々、町、湖、小島。
ふと、体が止まる。その場に浮遊しながら、眼下にあるものを凝視する。そこには、直径一キロメートルくらいの円形の陥没があった。中心から放射線状に、幾筋もの襞が走っている。まるで、爆心地のようだ。円周に沿ってあるのは、瓦礫の小さな山。粉々に砕けた水の神殿だ。その側に人影。一人、二人、三人。そして、円の中心にもう一人……。
唐突に、恐怖がユーリを襲った。意識が散り散りになってしまうような感覚を覚えて、激しく動揺する。
戻らねば――。
ユーリは懸命に精神を集中させた。
戻らねば――。
陥没した円が、さざなみに映るかのように歪んだ。歪みは次第に増し、人を、瓦礫を呑みこみながら、原型の分からぬ所まで拡散する。ユーリは思わず目を瞑った。いくばくかの間を置いて、恐る恐る目を開ける。
晧々と輝く月光。荒涼とした剥き出しの地面。
ユーリは一つ吐息を吐いた。そしてその場にゆっくりと崩れ落ちた。