蒼き騎士の伝説 第一巻                  
 
  第六章 流血(1)  
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 <流血>

      一  

 灰白色の切り立つ岩山。山膚に、濃い緑の茂みがぽつぽつと散らばる。その中の一つに、ユーリ達四人は張りつくようにして身を潜めていた。眼下には、急な斜面が広がっている。一様ではなく、層になった斜面。明らかに、自然のものに手を加えた跡がある。ラグルの村だ。
 彼らは岩山を切り開いて道を作り、さらに洞窟を掘り住処としていた。それぞれの住む場所は、一族内の上下関係で決められる。つまり、頂点に位置するものが、その村の頂上に居を構えるのだ。
 岩山に描かれた巨大な三角形。アルフリートから聞いた通りの景色が、目の前に広がっている。ただ、その際の解説に、含まれていなかったものがあった。おそらくこの国で、この惑星で、誰もが当然のごとく知っていることなのであろう。だが、ユーリ達にとっては初めてだった。ラグルを、ラグルの姿を見るのは。
「なんか昔の映画でこんなのなかったか? 俺、観たことあるぞ」
「私もあります」
「僕も」
 テッドの呟きに、ミクとユーリは小さく頷きながら答えた。
 優に二メートルを越す身長。厚みのある肩、胸板。隆々とした筋肉を有する腕と足。そしてそれら全てをびっしりと覆う黒々とした毛。それはもう、人ではなかった。猿人とでも言うべきか。見事なまでの直立姿勢のゴリラが、衣服を纏い、練り歩く。この星に来て、旅をして、もはや驚くべきことではないのかもしれない。それでも、違和感を完全に拭い去ることはできない。映画のワンシーンのような光景を現実のものとして受け止めるのに、ユーリ達は少なからずの時を費やした。
「このすぐ下が、長の住処だ」
 アルフリートの声が、現実への後押しをする。三人は揃って下を覗き込んだ。
 最も高台にある真下の層は、幅二メートル、長さ十メートルほどの小さなものだった。長の住処はその層を前庭として、山の中にある。山膚にぽっかりとある大きな穴が、その入り口だ。鎧を着けたラグルの姿も見える。二人。どうやら見張りのようだ。
 そのすぐ下の層とは、五メートル以上離れている。二つの層をつなぐ階段のようなものは見受けられない。が、よく見れば、岩壁の所々に自然のものではない小さなへこみがある。規則的に並んでいるところを見ると、おそらくこれが階段代わりなのだろう。人が登るにはかなり困難だが、ラグルなら、その強靭な筋力で駆け上がることができる。
 ファルドバス山を迂回して、道なき道を進み、山頂からここを目指したのは、どうやら正解のようだ。ふもとから、誰にも見つかることなく上り詰めるのは、どう考えても無理だ。だがここからなら、下層のものに気付かれないよう、見張りの二人だけを何とかすればいい。
「一人は捕虜にし、長の所に案内させる」 アルフリートが言った。
「もう一人は、動けぬようにしてここに残す」
「動けぬようにって言っても」
 身体を反らし、テッドは下を覗き込んだ。
「ありゃあ、大変だぞ」
「私がやりましょう」
 相変わらずの淡々としたミクの声に、テッドは口端をわずかに吊り上げた。
「確かにいつものお前さんなら一撃で倒せるだろうが、左腕がそう不自由ではな。俺も手伝う。おい、ユーリ。心持ち手前のやつの方が、身体が小さい。捕虜にするなら扱いやすい方がいいだろう。あいつはお前達に任すぞ」
「分かった」
 誰よりも早く、アルフリートが答えた。ミクとユーリは無言で頷く。
「じゃ、次に段取りだが……」
 テッドの声に四人は顔を寄せ合った。こと細かく互いの行動を確認すると、再び眼下を見下ろす。後はタイミング、それだけだ。
 ラグルの二人は、時折会話を交わしながら入り口付近に立っている。今は二人の距離が近すぎる。自分達が自由に動けるスペースがない。かと言って、あまり離れられても困る。事を、外で起したくない。
 四人は息を殺してその時を待った。極限の緊張状態が続く。ごくりと呑み込む自分の唾の音に、同じく自身の心臓が、どくんと過剰に反応する。

 
 
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