蒼き騎士の伝説 第一巻                  
 
  第六章 流血(1)  
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 今だ――!
 互いの呼吸を合図に、四人は茂みから飛び出した。ラグルの真正面に、ほぼ同時に落ちる。膝を曲げ、低い姿勢からタックルをくらわす。そしてそのまま中へ傾れ込む。
 ラグルの右腕をミクが蹴り上げる。斧が手から離れる。素早くテッドがそれを奪い、刃を逆にしてラグルの向う脛に思いっきり叩き込む。たまらずラグルは膝をつく。と同時に、ミクの踵が延髄に入った。一人、沈む。
 アルフリートの剣が小さな弧を描き、ラグルの斧の柄を真っ二つに割る。反動で、斧頭が空中で一回転する。駆けるユーリ。疾風のごとく、ラグルのすぐ脇をすり抜け背後に回り込む。重い音と共に、斧が地に突き刺さった。手に残った柄の切れ端を投げ捨て、ラグルがその片割れをつかむ。太い二の腕が隆起する。地面に深く食い込んでいる斧をあっさりと引き抜き、アルフリートに向かって高く振り上げる。
 強い衝撃がラグルの右腕に与えられた。自分の腕を見る。衝撃の理由を確かめる。その手の先に、斧はなかった。ユーリの放ったレイナル・ガンが、粉々にそれを破壊していた。ラグルの顔が怒りで歪む。
「ウィーバ」
 今にも雄叫びを上げ、ユーリに飛びかからんとしたラグルの動きが一瞬止まる。声を発したのはアルフリートだった。
「ウィーバ、無駄だ」
 その声と共にテッドが動く。気絶したもう一人のラグルから引き剥がした鉄の鎧を地に置き、そこにレイナル・ガンをぶち込む。
 ラグルの顔が引き攣る。デモンストレーションは成功した。アルフリートがゆっくりとした口調で言う。
「長の所まで、案内してもらおう。だが、その前に」
 構えた剣先をわずかに動かし、入り口を指す。歯を剥き出し、あからさまな敵意をその顔に浮かべるも、三つの銃口には逆らえず、ラグルは入り口に向かった。崖際で、止まる。そのまましばらく動かない。ユーリ達に緊張が走る。下層から聞こえる野太い声が、盛んに増す。言葉の意味は分からないが、それがこのラグルに呼びかけているものであることは確かだ。先ほどの大きな物音を不信に思い、集まってきているのだろう。銃を構える手に、必要以上の力が入る。
 すうっと、ラグルの右手が上がった。
「リドヌ・エンダ」
 アルフリートの肩が、ゆるやかに下がる。その姿を見て、ユーリ達も次々と安堵の息を吐いた。巨体を揺らし、ラグルが戻る。
「シッ・クォンド……ついて来い」
 はっきりとした発音の鮮明な言葉。アルフリート以外の三人は、再び非現実的な感覚を覚える。すぐ側を通り過ぎていくのを、見送るかのように見つめる。
「急ごう」 アルフリートが小声で囁いた。
「そのうちこの事態に気付き、下層の者達が押し寄せてくるだろう。その前に、ヌアテマと話をつけねばならない」
 ミクはわずかに眉をひそめた。テッドは軽く首を振った。そしてユーリは一つ、大きく瞬きをした。
 それぞれの方法で三人は現実を取り戻すと、ラグルに銃口を突き付けたまま歩き出す。吹きぬける風が、低く、長く、咆哮を上げる洞窟の奥へと。

 

 
 
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