蒼き騎士の伝説 第二巻 | ||||||||||
第十六章 潜入(1) | ||||||||||
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<潜入>
一
コルトはいったん言葉を切った。二人の蒼き鎧の騎士が、固唾を呑んで見つめているのを意識する。それが非常に心地良い。勿体をつけて、さらに一つ咳払いをすると、彼はようやく取って置きの言葉を口にした。
「明後日の宴を楽しみにしていると、ウルリク様は仰せになられた」
ユーリ達の表情が明るく輝く。嬉々として、いかに自分がこの返事をもらうために骨を折ったか。語るコルトを尻目に、二人は互いに目配せで勝利を祝った。
これで段取りはついた。後は……。
事が好転したのは、今から二日前、この町に来て七日目の夜だった。丘の中腹にあるサンダーム家の館。そこに務める使用人から、フレディックがある情報を仕入れたのだ。
「ここより北、ミナスの村の近くに、彼らが来ているそうです」
「彼ら?」
息せき切って部屋に駆け込んできたフレディックに、ユーリは尋ねた。
「キャノマンですよ。話を聞く限り、間違いなくリーマ達の隊です」
「そう、なんだ。でも……」
ユーリは小首を傾げた。
「それが、何か?」
「私も最初はそう思いました」
フレディックは明るい空色の瞳を、少し細めて笑った。
「ですが、その男の話を聞く内に、これは使えると」
「使える?」
「ええ」
フレディックは椅子を引き寄せ、半身を乗り出すように浅く腰を下ろした。ユーリもその対面にある椅子に座る。
「その男は、以前にも一度リーマを見たと言ったのです。リーマを、というより、リーマの踊りをです。サンダーム家の本宅で宴が催され、そこにリーマ達が呼ばれたとのことでした。キャノマンの民を招くというのは、かなり珍しいことではありますが、サンダーム家の主、カレント・サンダーム殿は、随分と開けたお方だと聞いておりますゆえ。本来、そのようなことは許されていませんが、貴族は無論のこと、一般の民も、彼らを避ける傾向があります。今も、ミナスの村に入ることができないでいるようです」
「つまり」
軽く眉を寄せ、一つ一つを確かめながら、ユーリは呟いた。
「その、リーマ達をここに招くと。そして、宴を開くと。そうすることで、きっかけをつかもうと」
「そうです」
「でも、うまくその話に乗ってくれるかどうか。キャノマンの民に対して、抵抗のある者が多いんだろう?」
「決めるのは、ウルリク様です」
フレディックの目に、自信の色が浮かぶ。
「そして、キャノマンの民に、キーナスの民と同じ身分を与えたのは、王家です。王の名のもとに定められし法に、それがあるのです」
「なるほど」
ユーリは大きく頷いた。
それなら、ウルリク妃は拒絶することができない。国妃として、申し入れを受けるだろう。たとえ、フィシュメル兵全てが反対したとしても、ウルリク様を少しでもお慰みしたいのだと、キャノマンの民が訪ねてきたなら。
「リーマ達、協力してくれるかな?」
「我々が行けば、恐らくは。そうと分かっていながら頼むのは、あまり気が進みませんが」
「うん」
小さくそう言うと、ユーリは立ち上がった。
「でも、これしかない」
「ええ」
フレディックも立ち上がる。
「そうとなれば、少しでも早い方が」
互いに頷く間を惜しんで、二人は部屋を飛び出した。