蒼き騎士の伝説 第三巻                  
 
  第二十一章 氷壁の乙女(2)  
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      二  

 テッドは懐からペンライトを取り出した。スイッチを入れる。上に掲げる。思ったより、裂け目は細い。それだけ、ここから距離があることを示している。その亀裂から、一つかみほどの雪がはらりと落ちるのを見て、テッドは小さく呟いた。
「これって……生き埋めってやつか?」
「あそこからの脱出は難しそうですね。レイナル・ガンで雪を吹き飛ばしたとしても、すぐまた周りの雪が落ち込んでくるでしょう。それにしても、大きな空洞ですね」
 すでに裂け目を諦め、念入りに辺りを照らしながらミクが言った。
「とりあえず、数日間はもちそうです」
「それって、やっぱり生き埋めってことだろうが」
 そう言うとテッドは、強く岩盤に打ちつけた痛みが残る腰を、軽く摩った。
 大きな雪の波に呑み込まれんとしたあの時、斜面を滑るように落ちていたユーリが急停止をした。レイナル・ガンを取り出す。止める間もなく、それを足元に向けて構える。白い雪片が間歇泉のように高く吹き上がり、体が沈む。衝撃音が山全体を震わせ、波がさらに大きく雪を跳ね上げ迫る中、ユーリはもう一度レイナル・ガンで地を裂いた。
 いや、ユーリの銃が、この亀裂を作ったわけではない。もともとそれはここにあった。そして、この空洞も。
 斜面に対して、少し内に入る位置にあった洞穴は、降り積もる雪の全てを吸い込むことなく、空間を残していた。そこに身を滑り込ませる。先の方で深く下に抉れていたため、落ちた拍子に体を強く打つ。だが、誰も、その時呻き声を上げなかった。ただ、耳を澄ます。轟く音が、流れていくのを聞く。ざくざくと、空洞の入り口を塞ぐ雪が、時折発する軋むような高い音に、息を潜める。
 ようやくペンライトを取り出す気になったのは、それらの音が消えて、大分たってからのことだった。
 鉛色の岩肌を見渡しながら、テッドが唸る。
「さて、どうする? このままじっとしていても、先はねえぞ」
「心配……ないよ」
 細い声で、ユーリが言った。
「道はある」
 振り返ったテッドの眉が、険しく寄せられる。幸い、誰にも怪我はなかった。だが一人、ユーリの顔色だけが冴えない。
「お前……大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「なんつーか、あまり使い過ぎるな。その……力」
 最後の言葉だけを、テッドは少し迷うように言った。その色を察し、ユーリの瞳がわずかに翳る。慌ててテッドが声を繋ぐ。
「いや、別にその力がどうこうっていう意味じゃないんだ。ただ、体のどこかが故障したっていうなら、こっちもいろいろ対処することができるんだが。意識を飛ばして、もし何か起こっても、俺にはどうすることもできない。力の仕組みすら、よく分からんのだからな。それほど心配することじゃないのかも知れんが、とにかく傍目で見ている限り、どうにもこうにも、危なっかしくて」
「うん。そうだね」
 一つ頷き、ユーリはにっこりと笑った。
「気をつけるよ」
 その笑顔につられ頷いた後で、テッドは軽く下唇を挟むように噛んだ。
 なんだか、軽く詐欺にあったような気分だ。
 心の中で、そう思う。もし、ユーリの答えが否定の意味を持つものだったとしても、やはり自分は頷いたのではないか。それほど真っ直ぐな、屈託のない笑顔だった。
 その笑顔のまま、ユーリが言う。
「でも、力を使わなくても、ちゃんと道案内ができるよ。さっき、見つけたから」
「さっきって、雪の中でぼおっと突っ立ってた時か?」
「うん」
 ユーリはこくりと首を縦に振ると、すっと右手を伸ばした。空洞の奥深くを指す。その先を、テッドのペンライトとミクのペンライトが追う。小さな光の丸い円が、岩肌に合わせて歪に形を変えながら、互いに近付いていく。そして、ぴったりと一ヶ所で寄り添う。

 
 
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  第二十一章(2)・1