蒼き騎士の伝説 第三巻 | ||||||||||
第二十一章 氷壁の乙女(2) | ||||||||||
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「あれか」
テッドの口から、低い声が漏れる。
空洞の奥行きは、二十メートルほど。進むにつれて、次第に天井部分が高くなっていた。最も奥まった場所の高さは、十メートル近くある感じだ。その左端、少し黒ずんだ影を落としているところに、窪みはあった。直径にして、七、八十センチほどの小さな穴だ。
テッドがまた唸る。
「あの先に道がってか? しかし、あれでは」
自分の体、そしてレンダムをちらりと見る。
「這って進むにしても、ちょいと小さくねえか?」
「問題ないよ」
暗がりの中、ユーリの声が明るく響く。
「狭いのは入り口だけだ。四、五メートルほど行けば、立って歩くことができる」
「なるほどね。じゃ、軽く穴を広げてみるか」
「その前に」
腰の銃にかかったテッドの手を、ミクの声が止める。その端正な横顔をペンライトで照らしながら、テッドが毒づいた。
「なんだよ。心配しなくても、無駄ダマは撃たねえって」
「そうではなくて」
ミクは、自分もレイナル・ガンを取り出しながら微笑した。穴に向かって構える。
「お、おい」
「まず先に、岩盤の質を調べなければなりません。あまり脆いようだと、レイナル・ガンでは崩れてしまう恐れがあります。とにかく私が先に上がって、奥の状態も含めて見てきます」
気持ち良く空気を切り裂く音がして、ワイヤーロープが放たれる。しっかりと穴の縁にそれがかかったのを確かめると、するするとミクは岩壁をよじ登った。
「でも、もしレイナル・ガンが使えないってことになったら」
苦もなくその痩身を、小さな穴に滑り込ませたミクを見やりながら、テッドは呟いた。
「どうすんだよ」
「その時は、わしがこの斧で岩を砕いてやる」
自信に満ちた顔で斧を振り翳したレンダムを一瞥し、テッドは溜息をついた。
「やっぱりそうなるか。コツコツ穴掘りしろってか」
「それなら僕が。多分、上手くいくと――」
穴を見つめるユーリの瞳が揺れ、焦点がぶれていく。すかさずテッドが言った。
「却下」
「……却下?」
黒く丸いユーリの瞳が、しっかりとした輪郭で自分を見つめているのを確認しながらテッドが言う。
「さっき気をつけると言ったばかりだろう。俺達の力で何とかなるなら、俺達でやる。お前は、お前の力は、そのうち嫌でも頼らなくちゃいけない時のためにとっておけ。まあ、減るもんじゃないのかもしれんがな。とにかくだ、お前は――」
「テッド!」
エコーを伴って、穴の奥からミクの声が響く。
「どうやら、そんなに心配する必要はなさそうです」
ひょいと小さな顔が出る。
「OKです。問題ありません。心持ち、穴の左下側を狙って下さい」
「よっしゃ。おい、ユーリ、ライトを頼むぞ」
「うん」
「ミク」
「いつでもどうぞ。しっかり狙って下さい」
その声が、穴の奥深くから聞こえてきているのを認めると、テッドは銃を構えた。
「照明係、ちゃんと照らせよ。無駄ダマ撃つと、女王様がうるせえからな」
一筋の光が、空洞内を明るく染める。爆発音が、空間の中で、何度も弾ける。その音が完全に落ちつきを見せる前に、ぽっかりと大きく開いた穴からミクが姿を現した。
細い顎がくいっと動き、赤い髪が流れる。
「先に行っています」
その澄んだ声に追いすがるように、テッドの銃から放たれたワイヤロープが、道を刻んだ。