蒼き騎士の伝説 第三巻                  
 
  第二十五章 導(2)  
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      二  

「止めなければならない」
 ガーダとの死闘の後、十三日間の時を経て、ようやくテッドとミクが聞いたユーリの声がそれだった。
「そのために、行かなければならない」
 二人が何かを返す前に、さらなる言葉がユーリの口から紡がれる。
「スルフィーオ族を襲ったガーダを探しに」
「探すったって」
 軽く頭をかきながら、テッドが言う。
「当てはあるのか?」
「多分、西……ユジュールの、どこか」
「って、おい」
「それでは、とても動けませんね」
 極めて冷静な声で、ミクが言い放つ。
「闇の中を、明かりも持たずに歩くようなものです。それよりもまず、やらなければならないことが――」
「じゃあ、放っておけと? あのガーダを。目の前で起きたことを見ないふりして、これから起こることに気付かぬふりして、そんな――」
「ユーリ」
 思いの外、強い口調の反撃を受け、ミクは困惑した表情をその顔に浮かべた。
「そう、聞えました?」
 どこまでも、穏やかさを保つ声で、もう一度言う。
「そう言っているように、聞えましたか?」
「……ごめん」
 目を伏せ、ユーリは小さく呟いた。ミクの口元が、少しだけ和らぐ。
「私には、あなたのように感じる力はありません。テッドもそうです。スルフィーオ族の村が滅ぼされた様をまざまざと見ることも、潰えた魂の悲鳴を聞くこともありません。ですが、何が起こったのかを知る力はあります。それが、どういう意味を持つのか、理解し、考える力も。そしてその結果、私達が何をしなければいけないのかも」
「ミク……」
「なぜ、ガーダがあの村を襲ったのか。あの村の何を滅したかったのか。その目的を考えれば、おのずと答えは見えてきます。破壊神の復活。ガーダはそのために――」
「エルフィンの娘を……ってか」
 低くテッドが呻く。
「迂闊だったな。奴らの動きの陰に、破壊神とやらが絡んでいる可能性は見えていた。となれば、それを封印したというエルフィンに危機が及ぶことも、想定できない範囲じゃなかった。あげく彼女を、そして村に残ったスルフィーオ族も、失う破目となった」
「そうですね。ですが、仮にあの時、彼女を連れ出していたとしても、助けることはできなかったでしょう。彼女を守りながら、シュベルツ城のガーダと対峙するのは不可能でした。ましてやもう一人、別のガーダがそこに現れたなら。私達は全滅させられたかもしれません。では、他の場所に隠せば良かったのか。例えば、ウルリク妃をカトロンの街に残したように。しかし、これも正解ではありませんね。共に死すべき者の名が変わるだけで、ガーダはやはり彼女を滅したでしょう。つまり、あの時点でどのように足掻いても、結果は同じだったということです」
 そこでミクは、少し間を空けた。理屈は間違っていない。だが、感情がついていかない。ユーリやテッドはもちろん、言い放ったミク自身、そう感じた。
 その気持ちを振り切るように、すっと顎を上げる。
「とにかく、今さらそれを悔やんでも、意味がありません。それよりもこれからできること、そこに集中すべきです。ですが、私達にはまだ、知らないことがたくさんあります。まず、取るべき道への、正しい道への導を得なければなりません。仮に、今から西へ、ユジュール大陸へ、ガーダを追っていくと仮定しましょう。しかし、広大な土地をただ闇雲に探して、見つけ出せるとは思えません。やはり、破壊神にまつわる逸話を頼りに、エルフィンの伝説を手掛りに、探す必要があります。それに、他の問題もありますし」
「他の――問題?」
 ユーリの瞳が、ミクに向けられる。その目を、冴えたグリーンの瞳がしっかりと見返す。
「このアルビアナ大陸がそうであったように、ユジュール大陸にもたくさんの人々が、多くの種族が、様々な国が存在します。そして旅をする以上、それらと関わることになる。場合によっては、誰かを守ることになるかもしれません。しかし、誰かを守るということは、誰かを傷付けることに繋がる可能性があります。誰かを、失うことにも……。その時、どう判断し、どう行動するのか。そのよりどころとなる知識が必要です」
「俺としては」
 腕を組み、じっと話を聞いていたテッドがぽつりと言う。

 
 
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