蒼き騎士の伝説 第四巻                  
 
  第二章 キャラバン(2)  
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      二  

 左足に、引き攣るような痛みが走る。その刺激と、骨にまで染み入るような寒さとで、テッドは眠りから覚めた。薄目を開ける。天から零れ落ちてくるような星に、圧倒される。しばし、その輝きに見惚れていたが、体の芯に残る疲労には抗えず、テッドは瞼を閉じた。
 しかし、一度覚めた脳は、素直には眠ってくれない。肩や腕が痛い。足がぱんぱんに張り、倍くらいの重みを感じる。あげく、四六時中乾きを訴える喉がぴりっと痛み出すに至って、テッドは再び目を開けた。
 ふわあっと息を呑み、そのまま固まる。数秒後、その息を吐く。
「何だよ、脅かすなよ」
 もう一度、肩で息をつき気持ちを整える。
「そんなところに突っ立って。人の顔じっと見て……。薄気味悪いことするな」
「ごめん……なさい」
 細い声で、サナが呟く。そしてそのまま沈黙する。らしくない反応に、テッドは体を起こした。傍らを振り返る。
 砂の窪みに、身を寄せ合うようにして眠るユーリ達の姿がある。リャンにくるまったまま、共にぴくりとも動かない。泥のように眠るとは、まさにこの状態を指すのだろう。だが、貪欲に眠りを貪っているのは、何も彼らだけではなかった。隊商のみなもまた、必死に体を休めていた。
 夜が明ければ、強行軍が待っている。水も食料も、後わずかだ。残りの行程を考えると、かなり厳しい。この危機を招いた要因は、五日前に起きた。
 右も左も、視界の全てがオレンジ一色となる砂嵐。通常なら、春先に多くみられる現象だ。夜の冷えた空気が太陽の光に暖められ、上昇気流を作る。それが風となり、嵐となる。だが、今の時期、朝日が昇ってもそう気温が上昇することはない。夏場であれば、とても日中動くことなどできない暑さとなる砂漠を、こうして進めるのも、初冬という季節のお蔭だ。
 しかし、砂嵐は起きた。まるで春先のような季節外れの暖かさが、それを招いた。夜にはいったん収まるものの、朝になれば目だけではなく、耳までをも塞ぎたくなるような轟音を発し、砂漠は四日も荒れ続けた。
 足止めを食らった分、体は休息を取れたはずだったが。実際のところ、その感覚をテッドは覚えなかった。休息とは、気持ちも休めて初めて成り立つものだ。砂の嵐に閉じ込められている間中、不安と焦燥で、心は緊張し続けた。
 特に、夕闇迫る頃、砂は燃えるような朱色に染まり、まるで炎の中に立っているような錯覚をもたらした。吹き荒ぶ風の音、全てを閉ざす真っ赤な砂。人を絶望させるには、充分過ぎる威力だ。もし、忍耐強い砂漠の民と一緒でなければ、三日目の夕方にはふらふらと、その炎の中に身を投げていたかもしれない。ただ、じっと。どこまでも、じっと。いつ止むとも分からぬ嵐が過ぎるのを、待つことができずに。
「よっと」
 テッドは、軽く気合を入れて立ち上がった。そこかしこの節が、痛みを訴える。体に与えられた四日分の休息は、今日一日で見事に帳消しとなった。久しぶりに動かした体はなかなか言うことを聞かず、距離を稼ぐため休憩時間を切り詰めて歩いたことも、相当響いた。
 今日と同じ試練が、明日も待っている。一分でも一秒でも、体を休めておく必要がある。あるが――。
「ちょっと向こうで話すか」
 その声に、サナが顔を上げた。
「こいつらを、起こしてしまうとまずいからな」
「――あっ」
「わめくなよ。目を覚ましちまう」
 サナを担ぎ上げ、固まって眠るユーリ達を踏みつけぬよう歩く。風よけのため、ぐるりと回りに配したデグラン達の間を縫い、少し離れたうねの陰まで進む。そこに、サナを降ろす。
「で?」
 どさりと自分も腰を下ろしながら、テッドが尋ねた。

 
 
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