三
ミクは、隊列の先頭を行くガジャの後ろに続きながら、パルコムを取り出した。地図と照らし合わせ、位置を確認する。しんがりを行くテッドは、左方に連なる砂の丘に視線を据えたまま、いったんデグランを止めた。セガピムと一戦を交えた丘は、もう遥か後ろに流れてしまったが、それでも注意深くうねを見やる。風の音の中に、何かが入り混じっていないか、耳を澄ます。
「休憩は、まだか」
「それは大変ね」
「腹が減ったぞ」
「それは良かったわね」
「お前、おいらの話をちゃんと聞いてないだろう」
「わたしもそう思うわ」
列の中ほどで、サナとティトがそう囀るのを背中で聞きながら、ユーリは唇に微笑を浮かべた。が、すぐにそれを引き締める。数日前の出来事を思い起こしながら、徐々に迫り来る、新たな砂の丘を見つめる。
この辺りはもう大丈夫だと、ガジャは言っていたが。
ユーリは腰に手をやった。銃の感触を、その掌で確かめる。
ずっと真西を目指していた隊列は、この日、緩やかに南へと方向を変えた。東西に走る、大きな砂の丘を超えんと近付く。このまま六日ほど突き進むとジェダという村があり、目的地クルンガラへは、さらに二つばかりの村々を経由する旅となる。まだ遠い。しかし、シャグ族達の表情は明るい。彼らの中に、峠を超えたという意識があるのだろう。つまり、このうねを上ることに、何ら危険はないということなのだ。セガピムは、ここにはいないと。
ユーリはようやく納得すると、両手で手綱を握った。軽く、体に傾斜を感じる。デグランがそれを嫌がり、右に逃れようとするのを宥める。いくら砂漠の動物とはいえ、砂山は、足に大きな負担となる。好んで登りたがるデグランなどいない。ガジャを始め、シャグ族の者は、それでも鮮やかにデグランを進めているが、ユーリ達にその手綱さばきはなかった。
ユーリはデグランから降り、軽く首元をさすって落ち着かせると、そのまま手で引く作戦に出た。サナとティトのデグランも、合わせて引く。砂のうねに沈み込む足元を睨みつけながら、ゆっくりと歩く。そこに、同じようにデグランを引き連れたテッドが近付いた。
「よう」
息を喘がせ、そう声を出す。
「守ってもらいに来たぜ。接近戦には、ちと自信がねえからな」
その言葉に笑顔を返すと、ユーリは前を見た。いや、そうするつもりであったが、できなかった。巻き上げられた砂に、視界が封じられたのだ。
デグランが、引きずられるように前足の膝を折る。がくりと体が大きく揺れ、そのまま横倒しとなる。
砂が、煌く。
反射的に、ユーリは剣を払った。堅く高い音と共に、重みを感じる。強く、それを押し上げるように、突く。砂粒の合間から、三日月型の剣が覗く。それが、大きく空に舞う。
「サナ、ティト!」
振り返るユーリの目に、デグランから投げ出された二人の姿が映った。手前には、影。白と黒。その色で、それが味方ではないことを知る。
影が、ユーリの声に反応する。剣と剣ががしりと組み合う。力は、相手の方が上だった。上段から、徐々にねじ伏せられていく自分の剣を、ユーリは素早く左下に引いた。と同時に、右へ踏み込む。そのまま相手の胴を払う。
「くっ」
痺れるような痛みを感じ、ユーリは顔をしかめた。白い衣の下には、鎧があった。それが、ユーリの剣を阻んだのだ。
ぎゅっと両手に力をこめる。深手を負わせぬよう、心持ち縦に、剣を滑らせるように払ったことが幸いし、何とか取り落とすことを免れる。首元を狙ってきた相手の剣に、その剣を合わせる。弾き、瞬間、膝を折り、今度は敵の足元を狙う。