三
幻影が、繰り返し行く手を遮る。壁のような、膜のようなイメージを抱いて臨んだ砂のオーロラは、一枚ではなかった。光を孕んだ粒子の中に身を進める。激しい風を感じ、息を詰める。砂で霞む視界の先へ、強引に一歩踏み出したところで、そこから解放される。が、その瞬間、新たな揺らめきが立ち塞がるのだ。
濃い疲労と失望が、みなの顔に翳りとなって落ちる。すでに、方向感覚はない。入るなり危険を感じ、密集状態を維持していたため逸れることはなかったが。それほど道は、不透明だった。
「何だってこんなに纏わりついてくるんだ?」
真っ先にテッドが悪態をつく。
「外から見ていた時は、きょろきょろ激しく動いていたくせに」
「どうやら、本当に目の意味を持っているようですね」
険しい声でミクが言う。
「こうやって侵入者を監視し続けているのかも」
「思いきって、全速で走ってみるか?」
「無謀な策ですね。振り切ることができなければ、さらに困難な事態となります」
「じゃあ、みんなばらばらの方向に進むってのは?」
「意味がありませんね。仮に、それで何人かが逃れたとしても、必ず一人はこの砂の中に閉じ込められてしまうでしょう。そして、その者を助けるために、またこの中に入る。無駄な足掻きにしかなりません」
「だが、このままでも一緒だろう。埒があかねえのは」
「うん。そうだね」
ユーリが歩みを止める。全員がその動きに合わせる。
「このままじゃ駄目だ。この目を、この砂を操っているものを、何とかしなくちゃ」
「操っているもの?」
「うん」
テッドの問いにユーリが頷く。
「多分、ガジャが教えてくれた、この地に潜む――」
「化け物ってか?」
テッドが唸る。
「だが、その肝心の化け物は、一体どこにいるんだ? いつ、仕掛けて――」
「待っているんだ」
「ん?」
「僕達が疲れてしまうのを」
ユーリは、サナとティトが乗るデグランから、一歩後ろに下がった。そのままさらに、数歩戻る。錆びた剣の柄に手を添える。
「つまり、動きを止める瞬間を」
「って、ことは」
「下だ!」
ガジャが叫ぶ。
「やつは下にいるはずだ!」
「テッド!」
「分かってる」
ミクの声に、テッドは急いでサナ達のデグランを引いた。ミク、ガジャ達も、残る二頭のデグランを引きながら歩く。小さな円を描くように、ユーリの周りをぐるりと巡る。その姿が淡緑色の膜に隠れる、ぎりぎりの距離まで離れつつ回る。
一メートル、二メートル、三メートル。これが限界か。
微かな揺らめきの向こうで靡くユーリの黒髪を見据えながら、テッドは歩みを止めることなく銃を構えた。ミクもその手に銃を取る。そしてガジャも、使い慣れない小さめの弓を手にし、十二本しかない矢の一本を番える。
ユーリは静かに目を閉じ、意識を解放した。砂の表面、その全体を覆うように広げる。ぼこりと突き上げるような動きを捉え、剣を握る手に力を込める。
まだ、深い。だが近い。それに。
意識の範囲を狭める。蠢くものに、集中する。
一つじゃない。全部で――。
「気配は四つ」
ユーリの声が、鋭く周囲を打つ。
「真下にいる」
「真下?」
テッドは構えた銃を、砂に煙るユーリの足元に向けながら叫んだ。
「真下って、俺の? お前の?」
「違う、みんな」
「って……そんな、バカでかい――」
「来る!」