四
「よく分かったな」
砂に埋まった青銅の扉が姿を見せた瞬間、ガジャはそう言った。払っても払っても、周りから落ち込んでくる砂に苛立ちながら、テッドが答える。
「これでも、学習能力は高い方なんでね。それより、掻き出すのを手伝ってくれ」
総出で砂を払う。塔の中央、その床にある大きな円盤の輪郭が、露となるまで手ですくう。
「さて」
自身は足首までを砂に埋もらせながら、テッドが呟いた。
「鎖はねえ。ということは、普通に開けられるってことだよな。ここにオラムかレンダムがいてくれると、ありがたかったんだが」
「吹き飛ばすしか、ありませんね」
即座に流れてきたミクの声に、テッドがにやりと笑う。
「早速の許可、ありがとうよ。みんな、下がって目を閉じてろ。砂が飛ぶから」
そう言いながら、銃を構える。狙いを定め、目を細める。
細かな粒子の入り混じった風が、強く顔を叩いた。思わず横を向く。頬に残るざらつきを手で念入りに拭い、顔を元に戻す。口の中で、じゃりっと音が鳴る。
「……って」
テッドはそのまま、また砂を噛み締めた。予想外の光景に、しばらく固まる。誰もが同じく、一点を凝視したまま止まる。
青銅の蓋は、その輪郭だけを残し消えていた。出来損ないの王冠のように、うねる縁の残骸が、レイナル・ガンの破壊力を示している。そしてその中心には、穴――が、空いているはずだった。だが、ユーリ達の目に映ったのは、塔の壁と同じ色をした石組みだった。
結界か?
まず最初に、そう思った。仮に、青銅の扉の下が空洞でなかったとしても、レイナル・ガンの力なら、石を、土を、貫いたであろう。だが、目の前の石床は、傷一つない綺麗な肌を見せている。
ユーリが、そこに近付く。刃物の鋭さを帯びて光っている、膝上辺りまである縁の残骸の前で、止まる。その中の空間を確かめるように、右手を伸ばす。
「感じない」
軽く眉を寄せ、ユーリはその場に片膝をついた。青銅の刺に注意しながら、伸ばした手を内側の石床にあてる。
「何も、感じない」
「結界――とかじゃないってことか? なるほどね。確かに触っても何も起らん」
ユーリに倣い、自分も円の中にある床を摩ると、テッドは腕を組んだ。
「と、落ち着いている場合じゃねえな。結界とは違うみたいだが、ここが普通じゃないことは確かだ」
「そうですね」
石床を睨むように見つめながら、ミクが言う。
「何かあることは、間違いないでしょう。ですが、一体どうすれば」
「ここが駄目なら、周りから攻めるしかねえだろう」
そう言うとテッドは、青銅の王冠をまたぎ、円の中央に立った。
「とりあえず、この縁のすぐ外側辺りにもう一発――」
「テッド!」
ミクがそう叫んだ。反射的に、ユーリが手を伸ばした。その手が、青白く染められる。青銅の縁に沿って幾筋も立ち上がった光の棒が、テッドを囲むように、檻のように並び、輝く。
伸ばしたユーリの手が、難なくそれを突破した。痛みはもちろん、何の抵抗も感触もない。半ば、拍子抜けしたような顔を、ユーリはテッドに向けた。それ以上に不可解な表情で、テッドがユーリを見返す。互いの顔に落ちる、青白い光を呆然と見る。
瞬間、その光が飛んだ。高く弾け、わずかに見上げる位置で、ぐるりと回る。塔の壁に沿って、円を描くように走る。光が石壁に、染みを作る。