蒼き騎士の伝説 第四巻                  
 
  第四章 闇の塔(4)  
           
 
 

「おっと」
 そう言って振り返ったテッドに、サナは勢い良く体もぶつけた。そのまま抱えられ、立たされる。それで、穴の底に着いたのだと知る。
 まず出迎えたのは、横穴だった。かなりの高さがあったが、奥行きはない。すぐ向こうに別の空洞があるのを見て取れる。ミク達はすでに、そこで待っていた。
「ここは?」
 ちょうど塔の上部と同じような造りの、ただ光だけが足りない空間の中で、サナが呟く。
「どうやら、またここで足止めのようだな」
 テッドが唸る。
「五つの塔に、十の鍵。つまり、塔一つにつき鍵は二つ。この先へ進むには、もう一つの鍵が必要ってことになる。だが、それ以前に、入り口が分からねえんだよな。ここの床には円盤なんてないし」
「やはり、怪しいのはあそこですね」
 ミクのペンライトが壁の一点を指す。灰色の石が規則正しく並ぶ中、その場所だけ色味が赤い。明らかに、何かあると思わせる石だが、ひどく高い位置にある。
「面倒なところにあるな。ワイヤーロープを使って上って、また一人ずつ試せってか?」
「その必要はないでしょう。鍵の意味を考えれば」
「意味?」
 そう問いかけると同時に、テッドの銃からワイヤーロープが放たれる。銀の道筋をライトで照らしながら、ミクが答える。
「恐らく、いえ、間違いなく、鍵とは種族を指しています。アルフリート王が幽閉されていた塔は彼自身、すなわち人が鍵となり、第一の扉は開けられた。ビルムンタルの沼にあった塔は、ガーダが鍵の一つであった。そしてこの塔の最初の鍵は、キュルバナン族。当然、この先に進む鍵は、それら以外ということになるでしょう」
「つまり、人ではなく、キュルバナンでもない、種族か……」
 テッドの声に合わせ、みなの視線が来た道を戻る。ちょうど、一塊となって降りてきたガジャ達と目が合う。塊が、一歩後退る。慌ててテッドが声をかける。
「そんなに怖がるなよ。地上では、あれほど勇敢だったくせに」
「砂は……いつも我らと共にある。そこに生きるもの全てが、そうだ」
 呟くようにガジャが言う。
「敵であれ味方であれ、みな、砂の世界にあるものだ。だが、あの妙な光は――」
「大丈夫だって。何かあったら、直ぐに助ける。サナやティトだって、平気だったろう?」
 さすがのシャグ族も、そこまで言われてはという思いがあったのだろう。みながいっせいに、勢いをつけ一歩前へ出た。だが、二歩目が出ない。互いに表情を探り合い、ようやくガジャがさらに前へ出る。
「見た目は頼りないが、この綱は」
「分かっている」
 少し怒ったような口調でガジャが言う。
「この綱が丈夫なことは、上での戦いで見た」
 ロープをつかむ。かさぶたに覆われた手の甲に負けず、堅い皮膚を有する掌でしっかり握る。両足で、塔の壁を歩くように蹴りながら、器用に登っていく。そして色味の違う石の側まで進む。
 ごくりと喉の奥に引っ掛かった唾を呑み込み、ガジャが声を張る。
「この後、どうするんだ?」
「その石に、触れてみて下さい。あっ、その前に」
 ミクがテッド達を振り返る。
「また、例の光文字が出るかもしれません。サナなら、全てを読み取ることができると思いますが。念のため、私達も備えておきましょう」
 その言葉に従い、テッドとユーリはそれぞれ逆方向の石壁を見やった。そこで一言、テッドが呟く。
「今度もまた、壁かな。不意打ちで天井とか床とか、そんなのだったら」
「その時はその時です。臨機応変に対応して下さい」
「――臨機応変ねえ」
「行きますよ」
 ミクの声が、上に向って放たれる。
「ガジャ、石に触れてみて下さい」

 
 
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  第四章(4)・4