蒼き騎士の伝説 第四巻                  
 
  第五章 沈黙の大地(1)  
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 <沈黙の大地>

      一  

 華やかな式典が佳境を迎える。赤、緑、黄、青。色取り取りの細い布紐で飾られた、純白の衣を纏う男女が、同じ動きで酒を飲む。砂の大地に、人々の歓声が響く。エナマ村での夜が始まる。
 塔を出たユーリ達は、ガジャ達の案内で、ソーマの目の南西にある一つの村に辿りついた。モルスと同じ、ソン族の村。彼らの多くはハラトーマに残り、差別と貧困の中でなお抵抗を続けているが。この村の人々は、平和を求め、敢えてさらなる過酷な環境の中に身を置いた。
 同じ部族でも、その選択は違う。ソン族もそうだが、ドル族も同様だ。ソーマの目まで逃れ、息を潜めるように生きる者もあれば、砂漠の盗賊となった者もあった。一体、どちらが正しいのか、という問いの答えを見つけることは難しい。ただ一つ言えるのは、彼らはその選択を、ごく狭い範囲で行った。ありとあらゆる道が閉ざされ、彼らはそのどちらかしか選ぶことができなかった。そのことだけは、正しい。
 モルスと同じ濃い髭の、若い花婿が、これ以上にない笑顔を見せる。その横で花嫁が、真っ白な歯を零して笑った。
 ユーリ達は、このエナマ村の人々に歓迎された。理由は二つあった。一つは、旅人であったこと。ドル族の村でもそうだったが、砂漠の民は、旅人に対して優しい。人種を問わず、種族を問わず、持て成すしきたりが古くからある。これは、自分達も元は砂漠を旅する民であった、という考えに基づくものであるが、中には、旅人は幸運をもたらす神の使者、という解釈もあるようだ。いずれにせよそれは、この砂の大地を無事に旅することが、いかに困難であるかを示している。ユーリ達は、その幸運に恵まれし者というわけだ。
 さらにもう一つ。ユーリ達の価値を高める要因が、この村にはあった。訪れたその日に、ちょうど結婚の儀が予定されていたのだ。村人の数は、たった二百名あまり。結婚式は年に数回、あるかないかのことである。そこに、旅人が訪ねてきた。クロルバの伝説にあるような、ソン族の最初の王に仕える八人の勇者、その数で。
 村人の喜びようは、ユーリ達の想像を遥かに超えるものだった。さすがに急ぎの旅だと言ってそのまま直ぐに発つわけにはいかず、ここで一晩を過ごし、翌日の早朝、村を出ることにしたのだ。
 一行が、結婚式場として通された場所は、花婿の家であった。ゼプースという、まるで地に枯れ枝が突き刺さったかのような木を用いて作られた素朴なもの。村の中では、これでも大きい家の方に入るのだが。結婚式に招かれた人々、すなわち村人達の大半は、その家の外に溢れていた。近くにある巨岩を材料にすれば、もう少し立派なものが作れそうだが。彼らに石を扱う技術はないようだ。
 開け放たれた扉から、溢れた人々が懸命に中を覗き見る。しかし、その数にも限りがある。ほとんどの者は、家の中から流れる音で、晴れの式の進み具合を確かめた。

 
 
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