蒼き騎士の伝説 第四巻 | ||||||||||
第六章 求めし者(1) | ||||||||||
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<求めし者>
一
街が慌しい。
最初に訪れた時も、その喧騒に驚いた。だが、あの時と今とでは、微妙に質感が違う。内に不安を含んだ、緊張を伴う焦り。そんなものが、街中の空気に溢れているのだ。
砂埃の舞う細い道を進む。見た目、人の量は少ないが、種類に偏りがある。いずれもがっしりとした体、腰には剣。ハラトーマの衛兵だ。
すでにユーリ達は、もう数回に渡って彼らに足止めをされた。もし、二ヶ月ほど前のこの街でのごたごたが、まだ彼らの記憶に残っていたのなら。あるいはもし、ユーリ達の外見が、彼らと似通っていたならば。問答無用で捕えられたかもしれない。しかしここまでは、いかにも異国民といった容貌が幸いし、行き先や、旅の目的などを問われるだけで済んだ。もっともそれらは予想以上に厳しく、旅の途中、シャグ族から知り得た情報がなければ、捕まらないまでも街を追い出されたかもしれなかった。
果たして、次も上手く切り抜けられるかどうか。
路地に入る一歩手前で呼び止められたユーリ達は、一様に心の緊張を隠して、穏やかな顔を兵士に向けた。
「何でしょう」
と、テッドが答える。シャグ族に限らず、この地の習慣では、女よりも男に、若い者より年長者に権威がある。つまり、ユーリ達三人の中で、最も力のある存在はテッドとなるのだ。そのテッドに応対の全てを任すということが、相手に対し、まず示さねばならない、最低限の礼であった。
第一関門突破。
心の中で呟きながら、ミクとユーリはテッドから大きく一歩下がった。その上で、ユーリは姿勢を正し、ミクはわずかに俯き視線を下げる。近付く衛兵を、ロナ族流の礼儀で迎える。
「お前達、どこへ行く?」
ぎろりと一同を一睨みし、衛兵が言う。テッドが、慇懃な口調で答える。
「行くのではなく、帰るところです」
「帰る?」
「もう十分に商売をさせて頂きました。ゆえに後は、キヨットの仕入れを頼んでおいたマズラのところへ寄り、その荷をカシュカルまで運ぶのみです。そこに我々の船がありますので」
「ふん」
と、これまでは、この台詞で終わりとなった。マズラという、ハラトーマで一、二を争う商人の名を具体的にあげたことが、功を奏したのだ。もちろんユーリ達は、マズラなどという人物と面識はない。ただ実際ガジャ達は、何度もその男と商売をしていた。ハラトーマでの大きな取引は、マズラかベレドームによって仕切られる、という事実を、街の者も衛兵もよく知っていた。「なら、さっさと行け」の一言で、済んだ。だが――。
「マズラが北の国の者と直接商売をしているなんて、聞いたことがないぞ。そっちの男はシャンの国の者だろう。女はオアバーダか。ニンダマーヤの商人を通してなら、何度か取引をしたことがあると話していたが」
衛兵の奥まった鋭い目が、ユーリ、ミクと巡って、テッドの元に返る。
「お前は、どこの者だ」
「私は、いえ、私どもはみな、キーナス国より参りました」
すかさずテッドが、うやうやしく頭を下げる。左手を腰に宛がい、右手を優雅に振る礼は、キーナスのものではない。だが、幸いにも衛兵は分からなかったようだ。板についたテッドの礼は、その部分が本物なだけに説得力を持った。衛兵が一瞬黙った隙をついて、さらにテッドが続ける。