蒼き騎士の伝説 第六巻                  
 
  第二十二章 命ある星の下で(2)  
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「できるわけ――ない。にも関わらず、お前さんはそう結論を出した。つまりそれだけ、切羽詰った状況というわけだ、俺達は」
「……テッド」
「よっしゃ」
 迷いの時間はそこまでだった。どこか吹っ切れたような表情が、テッドの顔に浮かぶ。
「もう一度、奴に会いに行くか。また嫌な思いをするかもしれんが、最終的にはアルフリート王の命を救ってくれた、あいつに」
「うん、でも」
 遠慮がちに、ユーリが呟く。
「今回テッドは、そんな思いをすることはないと」
「ん? どういう意味だ?」
「ガーダには……ガーダには、僕一人で会いに行こうと思ってるから」
「おい、ユーリ」
「ユーリ?」
 強い抗議の意を含んだ二人の問いかけに、ユーリが穏やかな視線を返す。
「二人には、まだここでやるべき事があるだろう? だから」
「フェルーラか」
 テッドが重い息を零す。
「アリエスからエターナル号に移したばかりだからな。設備はこっちの方が充実している。今のところ問題はないが、万が一、急変するようなことがあれば」
「アリエスの設備では、十分な治療が出来ない恐れがありますね。やはりテッドは、ここに残るべきでしょう。でも私の場合は――恐らくユーリが私に求めているのは、サナの補佐だと思いますが。持ち込んだ資料のデータ化に関しては、若干のストックがあります。サナがそれを調べている間に事を済ませば」
「一日、二日でその事が終わればいいけど。そう断定することは?」
「確かに」
 軽く眉を寄せ、ミクが呟く。
「行って帰るだけなら、一時間もあれば十分ですが。ガーダとの交渉が、スムーズに運ぶとは限りませんからね。むしろ、長期戦となることを覚悟するべきでしょう。その間、一人で作業を続けるサナには、大きな負担がかかってしまう。一方、ガーダとの交渉は、それがあくまでも対決ではなく話し合いで済むなら、ユーリ単独でも構わない。ですがもし」
「そのもし――が起こった時は、僕だけであろうが、みんなと一緒であろうが」
「同じ結果というわけですね」
「うん」
「分かりました、ユーリ」
 ミクの顔に、テッドと同じ納得の表情が浮かぶ。
「ここはいったん、それぞれ別れて行動することにしましょう。ただし期限を決めて。望むような情報が得られそうにない場合は、早々に引き上げる決断も必要です。無理にこだわり、決して深いとはいえない関係を悪化させてはまずいですからね」
「悪化くらいで済めばいいが。敵対するような羽目になったら」
「分かってる」
 テッドの不安にユーリが答える。
「十分、注意する。それに、出来るだけ密に、二人とは連絡を取るつもりだし」
「ちゃんと気をつけろよ。いきなりSOSを送ってきても、俺達は飛んで行けねえんだからな。一機しかないアリエスをお前が使う以上、こっちの移動手段は徒歩か馬。どんなに急いでも、ビルムンタルまでは二週間はかかる」
「そうだね。じゃあ何かあった時は、とにかく二週間、頑張ることにするよ」
「って、おい」
 屈託のない笑みを見せるユーリに、テッドが溜息をつく。
「真剣に心配してるのに、茶化すな」
「ごめん」
 笑顔を少し弱めてユーリが言う。
「でも、本当に無茶するつもりはないから。ビルムンタルのガーダとは初対面になるけど。ガーダの持つ力のことは、よく分かっているから。あの力の強さは」
「……ユーリ」
「そこまで考えた上でのことなら、心配いりませんね」
 いつもどおり、落ち着いた口調でミクが問う。
「それで、出発は?」
「アリエスの準備に少しかかるから。二時間後に」
「分かりました。それまでに、こちらで分かっている限りの資料を揃えておきます。いくつかサナが、ピックアップしてくれた事項がありますので」
「じゃあ、こっちはフェルーラの診断書をまとめておこう。俺とは随分手法が異なるが。ビルムンタルのガーダも医療の心得があるからな。それに、エルフィンの身体のことは、きっとあいつの方が……。まあ、とにかく、塔の謎以外にもいろいろ聞くことがあって大変だが、頼んだぞ、ユーリ」
「うん」
 明るい声でユーリが答える。共に三人が笑顔をつくる。その内面で、これから先に待ち受ける困難を的確に自覚しつつ、ユーリ達は各自の行動に移った。

 

 
 
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