「あれ,何が植えてあるんだ?」
僕は,彼の部屋の一番日当たりのいい場所に置かれている小さな植木鉢を指して言った。
僕は知っている。
あの植木鉢はもう何年も前からそこに大切そうに置かれていて,けれど一度も芽を出したことがない。
「・・・指,だよ。」
彼は言った。内緒だよ,君だけに教えてあげるんだ,と。
「僕はお母さん子だったからね。母が死んだ時,とても悲しかった。だから大好きだった母の白くて優しい指を,こっそりと,一本だけ切り取ったんだ。それをね,大切に大切にあの植木鉢に埋めたんだよ。」
母親譲りだろうか。彼の,しなやかな指が植木鉢をそっとなぞってゆく。
冷たい光沢を放つ,陶器の植木鉢。そして,まるで陶器のようにしろい,彼の指。
土の中は,白い,しろい一本の指が眠っている。
僕は鼓動の高まりを押さえられない。
「本当に・・・?」
彼は微笑んだ。
「君には,僕の指をあげるよ。」
彼の身体には,治ることのない病が棲みついていた。
------半年後,僕は自室の窓辺に植木鉢を置いた。
決して芽の出ることのない植木鉢を,ふたつ。