母のまなざし

ひもじいと泣く僕に,母は自分の左目を抉り出して与えた。
僕は母の眼球をしゃぶって育った。
いずれ母は骨になった。
でも左目はまだ僕の掌のなか。
寂しい僕は眼球を抱えて日々を過ごす。
眼球は僕の孤独を吸い取ってどんどん大きくなった。
抱えきれないくらいに。
僕の背丈を追い越すぐらいに。
その視線の先にはいつも僕。
朝も夜も。
母の視線が僕を捕らえて離さない。
ある日僕は眼球に刃を突き立てる。
ぐにゃりと歪む母の視線。
どろどろと生温かい液体が溢れ出す。
どろどろどろどろ。
それは僕のからだを絡めとる。
ああこれは母のかいなの温もり。
乳白色の液体のなかに僕はうっとりと身を沈める。
眼球は僕を呑み込むとぴたりと傷口を塞いだ。
母のまなざしのなかで,僕は二度と目を開かない。