侵海

それは夢だった筈だ。
夫と二人、南の島でのバカンス。
真夜中に、あらわれた義姉。
私たちは、ふたりきり、夜の海で対峙していた。
「こんな所まで追いかけてきたの。」
冷ややかな声をかける私。
ずっと前から気付いていた。
義姉もまた、彼を・・・私の夫を愛している。
美しい義姉。
けれど、彼は私のもの。
叶わぬ義姉の想い。
義姉の刺すような視線に、私はいつも昏い愉悦を感じていた。
「何よ。何とか言ったらどうなの。」
夢だと思う気持ちが、私を大胆にする。
無言のままの義姉に詰め寄るように踏み出した。
その、時。
義姉は突然、溶けはじめた。
黒い海を背に、波打ち際に佇む義姉。月光に浮かび上がる白い肌。
長い黒髪の向こうから、勝ち誇った笑みをたたえた瞳が私をみつめている。
そうして義姉は微笑んだまま、足下からずくずくと、海に溶けて消えていった。
ずくずくと。
まるで人魚姫のように。

そしてバカンスから帰った私たちは、義姉が失踪したことを知る。

あれから7年。
私たち夫婦は、今年もこの島を訪れた。
毎年欠かすことのない、ふたりきりのバカンス。
義姉の行方は杳として知れない。
いや・・・見つかる筈がないのだ。
私はもう気付いている。
あれは夢ではなかったことを。
義姉は、本当に、この海に溶けていったのだ。
だってほら、毎年泳いで、私はだんだん美しくなる。
義姉のような滑らかな肌。
義姉のような二重の瞼。
義姉のような形の良い唇・・・。
鏡のなかの、義姉にそっくりな私。

ひたひたと、義姉が入り込む。

からだを流れる血潮から、義姉の含み笑いが聞こえた。