「林貴子先生!」
私がそう宣言するやいなや、水銀灯の後ろから鬼が……いや、その名前の主が現れた。
「上島さん! 行き当たりばったりでそういうことは言うもんじゃないの!」
「いえ、別に行き当たりばったりじゃなくて、一応ちゃんとした理屈が……」
私はその理屈を説明しようとしたが……。
「あのね! 推理小説には、犯人は物語の最初の方から登場している人物じゃなきゃいけないって決まりがあるの! この話なら、せいぜい3章あたりが限界よ! 私が初登場したのは5章じゃない!」
……林先生がミステリーマニアだとは知らなかった。
「おまけに、その後私は、昨日入院したあなたたちをお見舞いに行くシーンまで出番がなかったわ! その間に人を操ってあなたたちを襲わせた、なんてのが真相だったら、読者からどれだけ非難が飛ぶと思ってるの!」
「で、でも、2章にしか登場してない佐々木さんたちが、結局当歳馬盗難事件の犯人だったし……」
「それは例外。だってそれは、『作者が当てさせようとしている犯人』じゃないもの。もっとも、そういうのは決して上手い作品とは言えないけどね」
「そうでしょう? 私もそう思ってたんですよ」
今日初めて、私たちの意見が一致した。
「だいたい、林先生なんてのが選択肢にあるから、押したらどうなるかと思って、つい押しちゃったんですよ。作者に文句をつけてやりたいです」
「そうよね!」
「はい!」
私たちは、もう数分前のことなんかどこへやら、すっかり意気投合していた。
「作者に文句があるなら、ここへメールを送ってみればいいと思うわ」
林先生はそう言って、持っていたバッグから分厚い本を取り出した。そのカバーに、何やらメモ書きがある。
「えーと……『brandiny@mermaid.plala.or.jp』ですね」
「そうそう。実は私もメールしたのよ。もっと私の出番は増やせなかったのかって。そしたら作者から返事が来たわよ」
「なんて書いてありました?」
「8章で、あなたが平賀くんと一緒に調査に行くと決まるシーンがあるでしょ。当初は、あそこで誰と一緒にいるか選べるようにする企画だったんだって。そこで哲くんを選ぶと、切らしたプリンター用紙を買いに出たついでに、私に会えるはずだったそうよ」
「そうだったんですか。私も何か、哲くんと出かけてみたかったような気も……」
「そういうのをことわざでなんて言うんだったっけ?」
「……すみません」
「まあ、いいわ。私が真犯人じゃない以上、ただのミスリードにしかならないシーンだもの」
「そうですね」
「……ってわけで、これを読んでるみなさんも、何か質問、意見、感想、苦情、いろいろ作者に送ってみたら? 変なやつだけどね。あ、メールを送る人はアドレスを半角に直して打ち込んでね」
「ところで、わかってるとは思いますけど、今これを読んでいるあなたは、犯人当てでは失敗してますからね。林先生は犯人じゃないですよ」
「ふふふ、そういうこと。……っと、そろそろお時間みたい。じゃあね。お相手は、貴子でした☆」
「理絵でした♪」
記念日 -ANNIVERSARY-
終