「……そうですね。騒いでも、何もいいことはありませんから」
私は、重くうなずいた。
「そうそう。騒いで自分の仕事をふいになんかするもんじゃないよ」
「ええ」
……やはり、私はそれが一番怖かったのだろう。
どんな綺麗事を言ったとしても。
「きっかさん。……誰にも、言わないでくれますか?」
「大丈夫、内緒にしとくよ。あたしは約束は守る」
きっかさんは私の背中をたたいた。
「ありがとうございます」
CDロムをドライブから取り出すと、ケースに戻し、元通り引き出しの奥に押し込める。
こんな物をこの世に残しておきたくはないが、処分したら私がこれを見つけたことが長瀬先生にわかってしまう。
そして、誰かに見られることがないように、パソコン本体の履歴も消す。
私は何も見つけなかった。何も見なかった。何も知らないまま……。
――でも。
「何もなかったこと」にはできそうもない。
あの一件は、確かに私の心に影響を与えた。
母への反発心は、余計に強くなった。
長瀬先生に対しても、心から尊敬しているとはとても言えなくなってしまった。
そして私は――。
「何もなかったこと」を装いながら、いつ真実が暴かれるかと恐れる。
その恐れを消すために、自分で自覚しながら心を乱す。
たどり着くところは、ひとつ。
誰も見ていない場所で、私は静かに怒り続けているのだ。
自分の存在理由を揺らがせてしまった、本当の両親に。
それは、一生おさまることはないだろう――。
静かなる怒り
(エンディング No.8)
キーワード……ぶ