長瀬先生……。
――なのだろう。
いくら信じたくなくても、もはやそう信じる道しか私には残されていなかった。
自分でこれを作って引き出しに入れておき、そして私に発見させるべく整理を命じた……。
しかし、なぜ先生がこんなことを――。
ひとつのひらめきがあった。
もしかしたら、この内容はすべて事実なのではないか。
ずっと隠していたが、どうしても自分が父親だと伝えたくなって、こういう手段を考えたのでは?
私には当然、世間一般における「父親」の気持ちなどはわからないが、小説などではよくこの手のパターンがある。
――だが。
私はディスプレイをにらみつけた。
これは、決して許されることではない。
遠い昔にあやまちを犯したのはまだ仕方がないにしても、それを伝えたいなら言葉で直接言うべきなのだ。
それも、よりによって今こんなことをしなくてもいいものを。
今は、有馬に乗れるか乗れないかの重要な時期だ。
いくら私が今の家族に不満を持っていたとしても、自分の父親が本当の父親ではないとわかったら、少なからず影響もある。
先生は、調教師としても父親としても、私のことを全然考えてくれていないのだ。
……出ていこう。
私はその決意を固めた。
もう、誰も信じられない。
昔から、親にさえ甘えずに生きてきた私だ。
今さらひとりになったところで、何の問題があろう。
私は私。
私の代わりは、どこにもいない――。
CDロムを取り出してパソコンの電源を落とすと、私は長瀬先生の机の上にあった便箋を1枚失敬して、走り書きをした。
『私は、もうこの厩舎には戻りません。
お世話になりました。 ――篠崎真奈』
そしてそれをCDロムのケースにはさんで机の上に残し、自分のバッグを持って、外に出た。
「……真奈ちゃん?」
掃除中のきっかさんが呼んだが、私は振り返らなかった。
これから、どこへ行こうか――。
私は私
(エンディング No.14)
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