「それがいいわ。こっちもそれなりの強さを見せないと」
私はそう考えた。
花梨ちゃんからも反対意見は出なかった。私たちはその作戦を決行することにした。

 

 

……レイラは「マニアの正体は秘密」だとかで、私と花梨ちゃんを私の部屋で待機させ、ひとりでどこかへ行って例の「装備品」を取ってきた。
軍服一式にマシンガンのレプリカ。3人分ある。本来はそのミリタリーマニアのコレクションなのだろう、3つともそれぞれデザインが違ったが、本物としての機能が備わっていない以上、逆に問題はない。

「……何だか、怖いわ」
着替えながら、私はついそうもらしてしまった。レプリカのマシンガンで本物に対抗しようというのだ。その気持ちは否めない。
「大丈夫ですよ。実は私、素手のケンカなら結構強いんですから! 向こうの銃やマシンガンさえ使えなくできれば、まず勝てると思います!」
花梨ちゃんが元気に右腕を振る。
「その『使えなくする』までが大変なんじゃない」
思わずぼやく私。
「そうですけど……でも、大丈夫だって信じるしかないですよ。私たち今、半分死んで半分生きてるような状態で、恐怖を感じたらその『死んでる』方の半分が大きくなってっちゃいますから。がんばりましょうよ。ね?」
花梨ちゃんは笑った。本人は喜ばないだろうが、こういう度胸を目の当たりにすると、さすがに中身は男性だなと思う。
「花梨、あんたいいこと言うじゃん。……真奈、怖がんないの。あたしだって作戦は充分練ってあるんだから」
「作戦?」
やはり怖がった素振りはなるべく見せたくない。私は気を強く持ってレイラにたずねた。
「一番の問題は、裏口のそばの階段にいるリーゼントだよ。まずはあいつをどうにかしなきゃ。さすがにこのかっこであのポイントを素通りはできないからね。……でさ、あんたも見たならわかるだろうけど、あいつ結構ぼんやりしてんだよね。うつむいてたりよそ見してたりさ。だから、あいつの後ろ……つまり階段の上からあたしたちが3人まとまっていきなり飛びかかって、ふたりがかりで両腕を押さえて銃を奪えばこっちの勝ちじゃん。で、残りのひとりは、マシンガンのレプリカで頭殴るなり首筋にチョップ入れるなり急所蹴るなり自由にやる、と」

「……やるしかないわね。がんばりましょう!」
私は気合いをつけて笑った。
「うん!」
レイラと花梨ちゃんが力強くうなずく。

役割分担が決まった。
私が左腕を押さえ、レイラが右腕を押さえて銃を奪い、花梨ちゃんが攻撃する。
それを確認すると、軍人姿になった私たち3人は部屋を出た。

 

 

――階段を下りていくと、リーゼントの背中が見えた。相変わらずぼんやりしている。見たところ、銃はポケットに突っ込んであるようだ。
「ラッキーだよ。あれじゃとっさに出して振り向いて発砲、ってことはできないからね。絶対勝てる!」
レイラがささやき声で私に言う。脅え気味の私を勇気づけようとしてくれているらしい。私は彼女に感謝する意味でうなずき、ささやき返した。
「早くやりましょ!」
「オッケー。じゃ、5つカウントして始めるよ。準備いい?」
「ええ」
「大丈夫です」
私は花梨ちゃんの左側に陣取った。彼女を真ん中に、その右側はレイラだ。
「じゃあ、行くよ!」
そして、カウントダウンが始まる――。

5……。
4……。
3……。
2……。
1……。

「突撃!」
私たちは一斉に階段を駆け下りた――というより飛び下りた。
「何!?」
リーゼントは私たちに気付いたが、時すでに遅し。私が彼の左腕を押さえたとき、レイラは右腕をしっかり締め上げてその手から銃を奪っていた。
「食らえ!」
完全に男性に戻った声で叫びながら、花梨ちゃんがマシンガンのレプリカでリーゼントの頭に強烈な一撃を加える。
……リーゼントはその場で情けなく伸びてしまった。

「やったわ!」
私は久々に、心から笑った。
「やだ……思いっきり品のない声が出ちゃった。恥ずかしい」
花梨ちゃんはすぐに女性になり、口を手で押さえて微笑んだ。
「ほらほら、恥ずかしがってる場合じゃないよ。まだ敵がこの先にもうひとりいるんだから。……ま、こいつがあるから、後はあたしにまかせといてよ。物騒だから日本じゃあんまり言いたくないけど……アメリカで本物撃ったこともあるからさ」
奪った銃を手に、ウィンクをするレイラ。

が――その平和ムードも長くは続かなかった。

「何してる」
不意にハスキーな声が裏口の方から響いた。
青くなった私たちが顔をそっちに向けると――例の女がこっちにマシンガンを構えていた!
私はとっさに、肩からベルトで下げていたマシンガンのレプリカを構えた。

 

 

――構えるべきでは、なかったのに。

 

 

……!!

激しい機銃掃射の音。
同時に、体のあちこちから魂が抜け出ていくような脱力感。

私は、撃たれた。
作戦ミスだわ――。

「真奈!」
頭上でレイラの叫びと、彼女が放ったと思われる銃声が……。

 

 

――私は、静かに目を閉じた。

 

 

レプリカ

(エンディング No.38)

キーワード……み


読むのをやめる