「危ない真似はやめなさい!」
私はきっぱりと言った。
「え、でも……」
「でもじゃないわ。下手なことをしたら全員の命が危険にさらされる――まさかそれもわからないわけじゃないでしょう?」
言い方は少し意地悪だったかもしれないが、花梨ちゃんを止めるためなら仕方ない。
「……はい。確かにそうですね。すみません、勝手なことをして」
花梨ちゃんは素直に頭を下げた。
「いいのよ、わかってくれれば。……もちろん犯人たちを優しいなんて思ってるわけじゃないけど、私たちを縛り上げたり銃を突きつけたままにしたりしないで、自由行動まで許してくれる人たちだもの。こっちが何かしなければ、少なくとも命に危険はないわ。ここは、自分の部屋にでも戻っておとなしくしているのが、一番の安全策じゃないかしら」
私はしゃべりながら考え、やはりそれが一番だという結論を出していた。
「ええ。それには賛成です。……じゃあ私も、自分の部屋に戻って鍵でもかけていますね」
「私もそうするわ」
「お気をつけて」
「ありがとう。あなたもね」
花梨ちゃんは近くの階段をゆっくりと下りていった。彼女の部屋は2階だ。
彼女の足音が聞こえなくなってから、私は廊下を歩いて自分の部屋に戻った。
しっかり鍵をかけ、ベッドに倒れ込む。
……眠ってしまおう。
こういうときに起きていても、神経ばかりすり減って何もいいことはない。
例え緊張や恐怖で眠れなかったとしても、動かずにいれば自然と心は落ち着く。動いた方が気が紛れるという人もいるが、私は逆のタイプだ。
私はベッドに入り込むと、瞳を閉じた。
――目が覚めたとき、少しは事態が好転していますように――。
……。
私は、ヘリコプターの音で目を覚ました。
夢を見ることもなく(こんなときだから当たり前かもしれないが)、気がつけば午後の3時を過ぎている。
ヘリコプター……!?
私は、あのリーダーのサングラスが、競馬の売上金と一緒に「逃走用のヘリ」をも要求していたことを思い出した。
とすると……交渉が成立したのかもしれない!
……思っている間に、ヘリコプターの音はどんどん上空に遠ざかっていった。
今の状態が気になって、私は鍵を外して廊下に出た。
同じように顔を出している人が何人かいた。
――そんな中、近くの階段を駆け上がってくる集団の足音が聞こえた。
待っていると、階段の下からは警官隊が現れた。
そして、先頭の警官が言った。
「競馬会は要求を受け入れ、犯人に売上金とヘリを提供しました。連中は今、屋上から逃走しました。もう安全です」
助かった……。
それを実感すると、私は思わずドアノブを支えに倒れ込んでしまった。
……プライドも何もない。情けないとは思ったが、人間はやはり生き延びることが最優先なのだ。
私は生き残った。
他の人質も、全員無事だった。
それだけで、よかったと思わなければならないのだろう。
事件は終わった……。
廊下の窓から差し込むオレンジ色の陽光が、時間の経過と一抹の虚しさを表していた……。
逃亡
(エンディング No.52)
キーワード……ペ