応接室や談話室などで誰かから重要な話を聞くときは、その途中で携帯が鳴ったら失礼だから電源を切るものだ。
今の田倉さんも、このパターンではないだろうか。
ということは……彼に話を聞かれた人を探してたどっていけば、彼に会えるかもしれないわ!

私は、頭の中のデータベースを調べ始めた。
彼と親しい人のリストが、またたく間に出来上がった。
ひとりひとり電話をかけて、聞いてみよう。

 

 

――しかし、それは無駄な努力に終わった。
電話をかけた人の誰も、田倉さんの現在位置を知らなかった。

何人かの人は、自分も彼から連絡が来るはずなのに来ないと言って心配していた。
私にだけ連絡をくれないわけではないとわかったが、それは新たな問題が増えたことにしかならない。
やはり、彼の身には何かがあったのだ。

何か――。
今のこのトレセンでは、人の消息が突然わからなくなるケースがあった場合、その理由はひとつしかない。

そう、田倉さんも――。

 

 

――そして、どうやらそれは現実になってしまったようだった。
あの日以来、田倉さんを見かけることは二度となかった。
泰明くん、田倉さん……あの日、ふたりが行方不明となったのだ。

そんな中、僚を病院に入れたことだけは正解だった。
放っておいたら、彼まで同じことになっていたかもしれないのだから。

でも――それがいったい、何になるというのだろう。
東屋先生や弥生さんも含めて、身近な人が4人も行方不明になっているというのに、私には何もできない。
僚の病気を治してあげることさえできない――。

人間とは、なんと無力なものだろう。
どうして、自分の無力さを感じるのはとても簡単なのに、誰かの力になるのはとても難しいんだろう――。

……そんなことを考えながら、私はただ、日に日に弱っていく僚をそばで見ていることしかできなかった……。

 

 

無力

(エンディング No.68)

キーワード……リ


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