私は必死に考えた。
僚が行きそうな場所……。

真っ先に考えついたのは、彼の実家だった。
彼は伸おじさんを強く慕っている。余命いくばくもないと悟ったら、おじさんのもとで一生を終えようと考えるのではないだろうか――。

そう考えた私は、すぐに伸おじさんの携帯を鳴らした。

……。

『はい……』
伸おじさんは元気のない声で出てきた。それは当然だろう。奇病で僚が入院したというのだから……。
が、感傷に浸っている暇はない。
「おじさん! 僚が病院から脱走したみたいなんです! そちらに帰っていませんか!?」
『脱走だって!? いや、うちには帰ってきてないが……なんてムチャなことを!』
「だから探してるんです! 私と、トラックマンの田倉さんとで……。それで私、おじさんのところじゃないかと思って……」
『俺も探す! 少しでも何か手がかりがあったら携帯を鳴らしてくれ!』
「あ……」
伸おじさんは一方的に携帯を切ってしまった。さっきの私と同じだ。それが、彼の焦りを痛いほどに運んでくる――。

 

 

それから私は、長瀬先生や自分の両親やありとあらゆる知り合いに連絡して人手を増やし、トレセン中を探しまわった。
ひとりでは何もできない――それが、ここでも悲しくなった。

が、どこをまわっても僚の手がかりはない。
真夜中になって日付が変わっても、トレセン中に懐中電灯の明かりが走っていた。

僚……。
僚……。
どうして、自ら死に近づくような道を選んだの?
どうして、病院でおとなしくしていてくれなかったの?

――深い悲しみと焦りの中で、携帯が鳴った。
光るディスプレイには、伸おじさんの名前があった。

「はい……」
『真奈ちゃんか。……僚が見つかった』
……!!
「ど……どこにいたんですか!?」
『トレセンの中心部にある公園の木の下だ。もう、すでに……』

「そんな!!」
……最後の言葉だけは、ウソであってほしかった。
だが、そんな悪いジョークを言う伸おじさんではないし、第一こんなシチュエーションでは誰もそんなことは言わない……。

「……今、行きます……」
私は、それを言うのがやっとだった……。

 

 

――公園には、すでにたくさんの人が集まっていた。田倉さんや、私が協力を頼んだ人たちだ。

「真奈ちゃん……」
伸おじさんのもとへ行くと、彼は私の名前だけを呼んで、足元を見た。

――そこは公園の隅、椿の木の下だった。
誰かが横たわり、伸おじさんの物と思われるコートがかけられている。
この下に……。

この木には、僚との想い出がある。
幼かった頃、僚はこの木に登り、下りられなくなって泣いた。
下にいた私は慌てて伸おじさんを呼んできて、助けてもらった……。
ただそれだけの話なのに、それがとてもせつない。

伸おじさんは、かけてあったコートの端を、私だけに見えるようにそっと動かした。
……下から、僚の真っ白な髪がのぞいた。
そして――彼の腕は、しっかり木の幹を抱きしめていた……。

……!
私は失われていた記憶を取り戻し、動かなくなった僚の顔の横を見た。
伸おじさんが、そこを照らしてくれた。

……「りょう」「まな」の文字。
あの頃、いたずらをして、僚と一緒に刻んだ名前だ。

僚……。
あなた、まさか……これを思い出してここに来たの?
抱きしめているのは、木じゃなくて、あの想い出なの……?
ねえ……。

「……見えたか? 真奈ちゃん……」
伸おじさんは重く言うと、コートを再びかぶせた。
「見えました……」
「どうやら僚は、死ぬなら自分の好きな場所で死にたいと考えてここへ来たらしい。……僚の一番大切なものは、君との想い出だったんだ。よっぽど好きだったんだろうな、君のことが……」

……。
私は、さめざめと泣いた。

僚、私もあなたが好きよ……。
もっと早くそう告げていれば、何かが変わっていたのだろうか。
その気持ちに、もっと早く気付いていれば――。

 

 

……想い出に流され、私は暗く深い海に飲み込まれていった……。

 

 

想い出

(エンディング No.72)

キーワード……ら


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