「撃つなら俺だけを撃て!」
「何を言うの!」
後ろから真奈が叫ぶが、俺の覚悟はできていた。
「……この作戦を考えたのは俺だ。俺たちが今危険な状態にあることは、俺の責任だ。他の連中には罪はない。だから、もしお前が『抵抗するやつは殺せ』と命令されていて、それに逆らう気がまったくないんなら、ターゲットは俺ひとりにしろ」
「……」
女の表情が固まった。
「罪には罰が必要だ――俺の親父は、いつもそう言っていた。どうせ助からないなら、尊敬する親父の言いつけを守って死ぬべきだと思ってな」
俺の目から、涙が……。
「……すまない、親父。先立つ不孝を許してくれ……」
「僚! いやよ、死んじゃいや! ……お願い、僚を撃たないで!!」
真奈……嬉しいが、そんなことは言うな。お前まで危なくなるぞ。
――だが、そのときそれは起こった。
「危ないっ!!」
叫びとともに、女はマシンガンを投げ捨て、俺に飛びかかってきたのだ!
俺はその勢いに押し倒される形となる。
……!!
同時に、強烈な銃声。
「う……うああああああっ!!」
――頭上で、うめき声がする。
俺がわけもわからないまま見上げると――2階の窓の向こうで、銃を持ったリーゼントが頭を抱えていた。
それを確認した直後に、やつは後ろから来た警官隊に取り押さえられる。
……?
何か、妙な匂いが……。
――俺は女に押さえ込まれた自分の体を見て、言葉を失った。
俺は血まみれだった!
しかし、どこにも痛みはない。
よく見ると、血は女の肩から背中にかけてできた銃創から流れ出るものらしかった。
……。
「お前……まさか……俺のこと、かばってくれたってのか? どうして……」
俺には、まったくもって何が何だかわからなかった。
こいつは、敵のはずだ。それなのになぜ……。
それに、いくら仲間を撃っちまったとはいえ、あのリーゼントの異常なまでの取り乱しようは……。
「……罰、受けるのは、あなたじゃない。私……」
女は、息も絶え絶えにつぶやいた。
「お前……」
「罪には罰を……いい言葉だと思った。あなたのお父さん、きっと素敵な人ね。そんないいお父さん、悲しませちゃだめ。それに、あなたを大事に思ってる女の子も……」
「お、おい! しっかりしろ!」
「……ありがとう……」
――それが、女の最期の言葉になった。
数日後。
精神的なショックがあるとかで病院送りになった俺は、見舞いに来てくれた真奈、レイラ、泰明、花梨の4人と、事件について語り合った。
「……あの4人組、兄弟だったんですって」
見舞いの花束を花瓶に生けながら、花梨が言った。
「そうなのか?」
俺はあの日からずっとここに缶詰になっていて、事件のことはほとんど何も知らないのだ。毎日来る親父もここの看護婦も、精神衛生上よくないとかで新聞のひとつも見せてくれないしな。
「ええ。上からサングラス、スキンヘッド、リーゼント。あの女は末妹だったみたい」
「なるほど。それであのリーゼント、あんなに慌てたのか。自分の妹を撃っちまったんだもんな……」
真奈の説明に、俺は胸を痛めながら納得した。
「女は、もともとあの『独身寮ジャック』には反対だったそうよ。でも、上の3人も素人で仲間がいなかったから、人手が足りなくて仕方なく妹に手伝わせたんだって」
「だから、俺の説得で簡単に動いて、それで……」
――枯れたはずの涙が、まだあふれる。
自分のせいで死んだやつがいるってのは、こんなにも苦しいものなのか――。
「そういえば、そもそもあいつらはなんでこんな事件を起こしたのかな。金目当てってことはわかるけど」
泰明がつぶやいた。
「ああ、それね。あいつら、貧しい某国の出身で、金持ちの日本が憎かったんだってさ」
レイラが答える。
「日本が憎いって……」
「そう思ってるやつ、海外には結構多いよ。あたしみたいに、しょっちゅう日本から出てる人間はよくわかるんだ。日本人はケンカ弱いくせに金持ちで威張ってるからさ。ほら、軍隊なんかで、上の方のやつは指令出すだけで何もしないじゃん? 最前線でいつも死と隣り合わせになってる下っ端の兵士たちから見りゃ、そりゃあ憎ったらしいもんだよ」
レイラの物騒な例え話に、全員がシリアスな表情になった。
「……私、僚が無事だったって今までほっとしてばかりいたけど、それも日本人的な考え方なのかしら。死人まで出たのに何を考えてるんだ、って憎まれても仕方ないのかしら……」
真奈が、滅多に見せないしおらしさを見せる。その言葉が嬉しく思えるのも、やっぱり平和ボケした日本人だからなんだろうか?
ところが、レイラはにっこり笑って答えたのだった。
「それはしょうがないよ。人間には感情がある。誰にだって大切なものがあるんだ。だから戦争も起きるし、恋愛も生まれるのさ」
――いろんな話を聞きながら、俺はまた、親父の言葉を思い出していた。
『罪には罰が必要だ』――。
俺も、仲間たちを危険にさらしたり警察に断りなく勝手なことをしたり、様々な「罪」を犯した。
何より、あの女が死んだ原因が俺の一言だったことは間違いない……。
退院したら、俺も罰を受けよう。
自分なりの方法で、愚かな選択を償うんだ。
俺はそう思った。
罪には罰を
(エンディング No.47)
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