「き、貴様が事件の黒幕か……!!」
一瞬にしてそれを悟った俺は、香先生に――いや、香に詰め寄った!
「そうよ。さすがにわかったわね」
「じゃあ……俺をこんなにしたのも、泰明に妙なケーキ食わせたのも、そもそもこんな病気を美浦中に流行らせたのも、みんな貴様だってのか!!」
「ご名答」
「ふざけんな!!」
俺は香に飛びかかり、その細い首をぐいぐいと絞めてやった。
「な……何、するの……」
「それはこっちが言うことだ! 貴様……貴様に何がわかる! 死を目の前にした人間の気持ちが……どうしても叶えたい夢があるのにそこまで生きられないかもしれない人間のもどかしさが、わかるってのかよ! ええ!? わかんねえだろ! わからせてやる!!」
「や、やめ……」
「やめるもんか! 貴様はここで死ぬんだ! どうせあと何週間も生きられないんなら、貴様を殺して、これ以上の犠牲者が出ないようにしてやる! そいつが俺の使命だ!!」

――俺は香の首を絞めたまま、やつの頭を、近くの机の角にぶつけた。
何度も、何度も、何度も……。
血が飛び散り、それが何メートルか向こうのベッドで眠る泰明の顔にかかっても、やめなかった。
香の首から上が原型をとどめなくなっても、やめなかった――。

……。

「……きゃああああああっ!!」

俺は我に返った。
悲鳴が飛んできたドアの方を振り返ると、そこには真奈とレイラがいて、ふたりして俺を、恐ろしい目で見ていた。
俺が、自分の手の中を見ると、そこには……。

――もはや、ただの肉の塊と化した物体が存在した。

 

 

事件は、容疑者の死という形で幕を閉じた。

香の研究室が見つかり、そこからやつが黒幕だという証拠、さらには病気の治療法なども発見された。
それらは俺の大きな味方となってくれたが――。
当然、俺は情状酌量で殺人罪こそ免れたものの、「過剰防衛」で訴えられることとなった。

だが……。
法律上の罪が、いったい何だってんだ。
俺が殺人者であることに、変わりはない。
これ以上の犠牲者を出さないようにと、香を葬ったことは後悔してないが――その後悔のなさが、より一層俺を責め立てた。

俺は殺人者。
それも、相当に危険な、狂気の殺人者だ――。

……今日も、拘置所にいる俺を、真奈がたずねてきた。

真奈……。
もう、ここへは来るな。
俺に関わってなんかいると、ろくな未来がないぞ。
お前は、そういうのを何より恐れる女じゃなかったのか?

頼む、俺をひとりにしてくれ……。

 

 

殺人者

(エンディング No.61)

キーワード……る


読むのをやめる