俺は、寮の中での聞き込みを行った。
――だが、これといった情報はなかった。
唯一気になったのが、泰明の姿を今朝から見かけないという話だった。やつはおとなしい外見に似合わず意外にも行動派で、今までは休みの日には必ずといっていいほど出かけていた。
ところが、やつと一番仲のいいレイラの話では、最近どういうわけか部屋に閉じこもることが多く、出てこないのも不思議じゃなくなってきたらしい。
結局何も得ることはできず、俺はそれを真奈に報告した。
『そう……。ごめんなさい、大変なことさせちゃって。あなたはもう、部屋で休んでいた方がいいわ』
俺はその忠告に従って、部屋に戻ったのだった。
――しかし。
その日以降、泰明の姿を見かけることは、ついになかった。
やつもまた、謎の行方不明者のひとりになっちまったわけだ……。
「あたし、泰明を探す! あんたも手伝いなよ!」
レイラはそう意気込みを見せ、むりやりに俺を調査メンバーに加えた。
病気を隠している手前、下手に断ることもできず、俺はその日から泰明を探し始めた。
真奈だけは俺の状態を気づかってくれたが、それも大っぴらにはできず、俺の体には負担がかかっていった。
……そして3日後、泰明が見つからないまま、俺は倒れた。
「僚……もう無理よ。病院に行きましょう。ここに閉じこもってるよりは、適切な治療をしてくれるわ」
風邪をひいたことにして自分の部屋で寝ていた俺を真奈がたずね、そう言った。
だが、それにはうなずけない。
「行かない。ここで寝てれば、そのうち体力が戻って動けるようになる。病院に入っちまったら、その後の行動もできなくなるんだぜ」
「でも……私、もう夢の世界じゃ生きられない!」
真奈は悲痛な顔で叫んだ。
「真奈?」
「わかるのよ……。あなた、このままだともうすぐ死ぬ。泰明くんだって、もう生きてないに決まってる……」
「そんな不吉なこと言うな!」
「言わないことで不幸を回避できるなら、とっくにそうしてるわ!」
真奈は、泣いていた――。
「私だって、信じたい……あなたは死んだりしないって。泰明くんはどこかで元気にしてるって。でもね……もう、できないの……」
……不意に気だるさを感じ、俺は目を閉じた。
あれは……。
トレセン内の公園にある木。
そうだ。ガキの頃、あれに登って下りられなくて、下にいた真奈に助けを求めたっけな。
「真奈……覚えてるか? 俺が公園の木に登ったときのこと……」
「覚えてるわ……。強いはずのあなたが、大声で泣いてたわね」
「お前は、今からじゃ考えられないほど素直に、親父を呼んできてくれて」
「あなたは、伸おじさんに助けられて、そのまま背負われて帰った……」
不思議なもんだ。
人間、死ぬときが間近になると、本当にガキの頃のことを思い出すんだな……。
「……俺、幸せだった。物心ついた頃からお前がそばにいて、ひとりじゃなかったもんな」
「僚……!!」
真奈が俺の手を強く握り、泣き叫ぶ……。
俺は、体中が熱くなった。
それは病気のせいでそう感じるのか、それとも――。
最期に、好きとでも残していくかな。
――だが、それはやめた。
俺と別れてこの世界で生きていくこいつが、今後、恋のひとつもできなくなったりしたら気の毒だ。
……迎えが、来たらしい。
意識がどんどん遠のいて。
真奈の泣き叫ぶ声も、どんどん小さくなって――。
――そして、俺の時間は、そこで途切れた。
タイムリミット
(エンディング No.63)
キーワード……か