俺はまるで何かに取り憑かれたかのように、その渦を見つめ続けていた。

……やがてひずみはゆっくりと小さくなっていき、そして……まるで穴がふさがるように消滅した。

 

 

ひずみが消えても、俺はまだそれがあったあたりから視線をそらせなかった。
何も考えず、ただ真っ白な心で、緑色ばかりで埋まった部屋の一部を見つめ続ける。

……俺の中の時間は、止まっているのかもしれない。
あんなに胸一杯にあふれていた悲しみも憎しみも、いつしか感じなくなっていたのだから……。

そのとき、廊下を走ってくる足音が聞こえた。それでようやく我に返る。

やがてドアが開き、そのすきまを割るように飛び込んできたのは……透くんだった。

「俊夫さん!」
彼は、俺と直面するやいなや叫んだ。
「バカな真似をするのはやめてください!」
……真剣な表情だ。
今にも涙を流しそうなその瞳は、俺の右手の銃を見つめていた。

そうだ……。
俺は、自分がどんな状態にあったのかをようやく思い出した。
みどりを失って……そして、後を追おうとしてたんだ。
しかし……どうしてそんな大きな決断を、一時でも忘れてしまったのだろう?

「お願いですからやめてください! そんなことをみどりさんが望んでいるはずはありません! ありふれた理屈ですけど、それでも……」
透くんが叫び続けている。

……俺の右手から、板張りの床のカーペットが敷かれていない部分に銃が落ち、金属音が響いた。
不思議なことに、死のうなどという意識は、完全に心から消えていた。

……ああ、そうだ。
きっと、あの赤いひずみの力なのだ。そうに違いない。
あれが、俺に生きる気力を授けてくれたのだ……。

「……わかったよ。もう、そんなことは考えない……」
俺は、透くんよりはみどりの魂に聞かせるように、静かにそう言った。

みどり……。
俺は生きていく。
君への想いを抱きしめながら。

透くんについて談話室に戻る前に、俺はもう一度ベッドの方を振り返った。
そして、そこで眠り続けている……そう、俺の中ではただ眠っているだけの……愛しい女性に向かって、心でそっとつぶやいた。

『愛してる、みどり。今までも、これからも……』

 

 

眠り

(エンディング No.3)

 

 

読むのをやめる