パーカーのポケットに入れておいた例の銃を取り出そうとした。
……ん?
手を突っ込んでみたが、それらしい感覚がない。
思い違いかと、反対のポケットも探ってみる。
しかし、そっちにもなかった。
おかしいな。どこかで落としたか?
あっ……!
……俺は、突然気がついた。
もともと美樹本は、みどりを殺されて怒り狂った俺が飛びかかったから、隠し持っていた銃を出したのだ。
あの世界では……そう、みどりが殺されずにすんだ世界では、やつは銃を出さなかった。
出さなかった場合、当然それが俺の手に渡るはずはない……。
……もしや!
さっきまでの不安はどこへやら、俺はすぐさま振り返っていた。
……そこに、みどりはいなかった。
きちんと整えられた彼女のベッドが、まるで微笑むように俺を迎えた……。
俺は立ち上がり、廊下に飛び出した。
慌てて談話室に駆け込むと……縛られたままの美樹本以外、そこにいる全員が俺の方を向いた。
オーナー。
ママさん。
香山夫妻。
透くん。
真理ちゃん。
OL3人組。
そして……。
「あ、あ……」
……みどりが、いた。
しっかり自分の足で立って、俺を見ている。
その大きく魅力的な瞳で、俺を見つめている……。
夢ではない。
あれは、夢ではなかった!
未来は、確かに変わったのだ!
「生きてるんだ……俺を見てるんだ。本当に、本当に……」
「ちょっと、どうしちゃったのよ。ねえ、俊夫くんってば」
彼女は、うわごとのように繰り返す俺に近づき、背中をポンポンとたたいた。
……俺の言うことが、彼女に聞こえている。
彼女が俺のいる場所に来て、俺に触れている……。
……刹那、理性が吹き飛んだ。
俺の心にあるのは、このみどりを……一度は失ったはずの愛しい彼女を、自分の少しでも近くに置いておきたい、という本能だけになった。
俺はいきなり彼女を引き寄せ、力強く抱きしめた。そして、心の底から叫ぶ。
「みどり! 大好きだ! もう絶対……絶対に放さない!!」
まわりに人が何人いようが、構わなかった。拒まれることに対する不安すら消えていた。彼女のぬくもりをしっかり認めると、ほんの少しだけあった恥ずかしさも、涙になって流れ落ちた……。
「と……俊夫くん、やめるんだ。みんなの前だぞ……」
焦ったようなオーナーの声が向こうから聞こえてきたが、それ以外に何かを言う人はいなかった。
いや、ただひとり……。
「いいの、オーナー。あたしだって……」
みどりだ。
みどりが、俺の胸の中で声を出している。
その震えが俺自身にも染み込んで残り、そして。
「嬉しい……ありがとう、俊夫くん。あたしも、あなたが大好きよ……」
彼女は、俺の胸にそっと顔をこすりつけた。
奇跡だ。
奇跡を起こせたら……俺のその強い強い想いは、それゆえに現実のものとなったのだ……。
……誰かが口笛を鳴らし、拍手を飛ばす。
そんなざわめきを遠くに聞きながら、俺は彼女の小さな体を抱きしめる腕に、さらに力を込めた。
奇跡を起こせたら
(エンディング No.1)