みどりが愛用していた目覚まし時計を手に取り、耳にくっつけてベルを鳴らしてみた。
ベルは、けたたましく響き渡る。

……ん?
意外にうるさく感じない。
耳に近づけすぎていると、かえってそうなんだろうか。

……。
何だか、ものすごく眠い。
いったい、俺はどうしちまったというんだ?

俺は……。

……俺……は……。

 

 

……騒がしい。

手を伸ばすと、なぜかいきなり静かになった。
と、思ったのも束の間……。
「俊夫くん! ほら、もう起きないと!」
また静寂は破られた。

……!

あの声は……!!

眠気が一気に吹っ飛び、俺は目を大きく見開いた。

 

 

そこは、俺の部屋だった。
俺は、寝間着代わりのTシャツ姿で、自分のベッドの中にいた。
外は明るい。
朝か……。

……すると、俺はずっとひとつの夢を見続けていたんだ。
バラバラ殺人が起き、その謎を解いたみどりまでもが殺されてしまう……という、俺にとってはこの上ない悪夢を。
小説なら、「なんだ、夢オチかよ」とあきれられるところだ。

でも……。
夢でよかった。
あの悲劇が現実のものじゃなくて、本当によかった……。

ドアが開けられる。
そのすきまから、みどりが……俺の一番大切な人が、あのかわいらしい顔をのぞかせる。

「やっと起きたわね。……まったく、目覚まし止めるだけ止めてまた寝ちゃうのって、悪い癖よ」
セリフとは裏腹に、彼女は笑っていた。
生きている……そのことをとても強く感じさせる、明るい笑顔がそこにあった。

「みどり……」

愛しさと安らぎに押されて、俺は彼女の名前を呼んだ。

「どうしたの?」
彼女が答える。
そのあまりにもいつも通りの口調に、また「愛してる」を言う勇気が失せてしまった。

仕方ないな……。
俺は苦笑いしてベッドから起き上がると、彼女に向けて、想いのすべてを込めて吐き出すように、ゆっくり口にした。

「おはよう……」

窓の外は、明らかに現実である昨日の吹雪までが夢に思えてくるほど、鮮やかに晴れ渡っていた。

 

 

目覚め

(エンディング No.8)

 

 

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