俊夫さん――もうこの世には存在しない人だ。
しかし、彼が残していったものは、とても大きかったように思う。
想像でしかないが、ジェニーが行方不明になっていたとき、彼が奥の部屋まで探しに行ったのは、みどりさんのためだったんじゃないだろうか。
2階に行ったというだけで疑われ、かわいがっていたジェニーを「殺されたのでは」と言われてショックを受けていたみどりさん。
俊夫さんは彼女を安心させてあげようと、ジェニーを探しに行った。
そして自分の部屋で手がかりらしきものを見つけ、詳しく調べようとしたところで小林さんに見つかってしまい、殺された――。
閉ざされたペンション内で起きた殺人事件に巻き込まれる、などといった極限状態に追い込まれても、その恐怖から逃げ出したりせず、犯人を見つけることによってみどりさんを――いや、あのときペンション内にいた全員を守ろうとした俊夫さん。
それなのにぼくはその頃、ただ脅えるばかりで、誰かを守ろうなどとは少しも思えなかった。
ようやくそう思えたのは、一番勇敢な彼を失ってからだった。
――この差は、ぼくを大きく沈ませた。
みどりさんは素敵な人に愛されていた。
しかし、真理は――。
真理がぼくに連絡をくれないのは、やはりこんな弱気な男はいやだと思っているからなのかもしれない。
自分を責めるのは嫌いだったはずなのに、そうだとしか思えなかった。
俊夫さんのようになりたい。
自分のことより他人のことを先に考え、身を挺してでも守れるような、そんなしっかりした人間になりたい。
そしていつか変われたとき、ぼくは再び真理を探し出し、過去の穴を埋めるように、ずっと彼女を守るのだ。
いつの日か、必ず――。
――そんな決意を固めると、涙が出てきた。
何が悲しいわけでもないのに。
終