最近、「老害」という言葉を良く耳にするようになった。

「老害」とは、保身を最優先に考えるような強欲自己中ジジイが、既得権益を手放したくないばかりに、後進に道を譲らないことで、社会や組織の機能に障害を与えることを言う。広義には、煮ても焼いても食えないジジイの態度が、下の世代に悪影響を与えることも指す。造語ではあるが、しかし、これほど言い得て妙な造語もそうないだろう。
勿論、老人が害だと言うことではない。くれぐれも誤解なきよう。

「老害」が、いかに質の悪い害毒であるかを知るには、政界(特に自民党)、財界の在りようを見ればよいだろう。
日本の政界では、「50歳では若造、60歳でようやく一人前」などと言うバカげたことがまかり通り、当然あるべき世代交代を著しく鈍化させている。老い先の短い妖怪クラスのジジイたちが政界を牛耳ることは、我が国にとってこの上ない悲劇だ。「どうせその頃は死んでるんだから、オラ知らね」というような感覚で政治をやるような者に、我が国の将来を託すことはできない。ここまで日本をダメにしてきた張本人たちには、そろそろ引退願おう。日本では、おそらくは「ケツの青いガキ」扱いされるであろうイギリスのブレアや、ロシアのプーチン(何れも40代)のような若手が、我が国でも台頭できるようになることを切に願う(若けりゃいいってモンでもないが)。
とは思っても、2000年の衆院選では、結局、政権交替は起こらなかった。確かに、都市部では与党不支持の声が相次いで、大きく議席を減らしたものの、地方に行けば票の流れは旧態依然としたままだ。我々も、自分の子供が可愛かったら、もういい加減にバカを返上しないとマズかろう。

その一方で、昨今では、「エイジズム(ageism)」という造語まで生まれている。
英語で人種差別を「レイシズム(racism)」、性差別を「セクシズム(sexism)」と言うが、これらのエイジ(age)版とでもいった表現で、世代差別を意味する。
以前、某局のニュース番組で、筑紫哲也氏がこの「エイジズム」という言葉を用いて、老害について取り上げたことがあった。氏は、現代社会を「エイジズムの社会」と明言すると同時に、「老害」が高じて「老人差別」となりかねない点に言及し、警鐘を鳴らした。確かに氏の言うように、近年、何かと世代で線引きする傾向はより顕著になり、年寄りを汚物扱いする者も増えてきている。モラルの低下は目を覆うばかりだ。年寄りは人生の先達として、尊敬すべきは尊敬し、見習うべきは見習わねばならないのだが、核家族化の進行とともに年寄りと一緒に生活することが珍しくなった今日では、もはや当然のことが当然のようにできなくなってしまっている。
「子供叱るな来た道じゃ、年寄り笑うな行く道じゃ」と言うが、今こそ、思い返すべき時だろう。いずれ自分も年寄りになるそのことを忘れて、年寄りを軽んずるようでは、日本の将来は暗い。

私には、倍近くも歳の離れた「友人」がいる。「あんまり長生きしてると子供たちに嫌われるゾ」と突っ込めば、「俺もそう思うんだよ。でも、死なないんだからしょうがない」と笑って切り返す、何とも洒落の解る爺さんで、下手な友人より余程気楽に話せるのだ。はじめは若輩者の分際で「友達扱い」は失礼かとも思ったのだが、友人としてお付き合いした方が、爺さんも若くいられるだろうと勝手に解釈して、「ダチ宣言」をしたのだ。ガハハハハ(TM)
私はこの爺さんと、約10年の長きに亘って、一緒に仕事をさせてもらったのだが、その間、本当にいろいろなことを学ばせていただいた。爺さんが私の会社に出向してくる以前は、そこそこ「お偉いさん」だったらしいのだが、他の出向者と違って少しも偉ぶるところがなく、寧ろ、畑違いの子会社へ出向したのだからと、プロパーに対して低姿勢であった。そればかりか、同じ出向者で、仕事もせずに口だけ出すような「老害ジジイ」には、プロパーに成り代わって食って掛かった気骨者でもあった。
先日、リライトの仕事を依頼するために、久しぶりに爺さんに会った。近況を聞いてみれば、驚いたことに、中国語(北京語)の勉強と江戸文学の勉強のため、仕事を離れた今の方が余程忙しく過ごしていると言うではないか。70を超えてなお矍鑠として、若者に負けじと常にチャレンジし続けるこの爺さんが、私は大好きだ。どうせ歳をとるなら、この爺さんのような歳のとりかたをしたいものだ。

高齢化社会を迎えるにあたって、各方面でシルバー人材の活用が注目されているが、世の中見回すと、年寄りならではの仕事というのは案外と多い。年寄りに限らず、何かに期待されて社会的活動をすることは、生きていてハリがあるものだ。ハリがあれば健康も維持できようし、長生きもできるだろう。年寄りが「エイジズム」を感じることなく、いきいきと仕事ができ、年寄りと若い世代とが楽しく共生できる世の中になればと願っている。
また、社会の癌である「老害ジジイ」は即刻掃滅して、一日も早く日本の政界財界が健全化されることも切に祈るものである。


2001.1.1 Clark Mint